ここで言いたいのは、チャネルを通して顧客の行動データを得ることによって、マーケティング要素の変革を起こし得るということだ。Amazonが築いたチャネルは、マーケティング要素で言う“Place”の変革である。選択データに対する販促提案は、“Promotion”である。購入データに対する価格提案は、“Price”に当たる。そして最後の使用データに対する商品提案が、“Product”である。つまりAmazonはPlace(チャネル)によって顧客からの行動データを把握し、Promotion(販促)・Price(価格)・Product(商品)を変革し、顧客にさらに新しい価値を提案できるのだ。

 顧客から見れば、選択段階では情報による販促提案のみだったものが、購入段階では販促+価格提案になり、使用段階では販促+価格+商品提案に引き上がっていく。Amazonがチャネル変革だけで留まっていれば、他社へのスイッチは容易かもしれない。しかし自身の行動データに沿った販促・価格・商品が提案されるなら、他社による代替はもはや容易なことではなくなる。顧客からの評価は高まり、行動は完全にAmazonに引き込まれ、つながりはさらに強くなっていく。

顧客時間のフレームワーク
顧客時間のフレームワーク

 繰り返すが、チャネルシフトの目的は「顧客の獲得」である。チャネル変革、それ自体はゴールではない。チャネルで顧客とのつながりを築き、他企業が模倣できない販促・価格・商品を生み出していかねば、顧客を獲得し、維持することはできない。

 この視点からチャネルシフターの事例を見れば、彼らがチャネルの差別化に止まらず、販促・価格・商品などで、新しい強みを手に入れていたことに気が付く。Amazonは他顧客の選択・購入データから、「この商品を見た人、買った人は、他にこんな商品を見ている」という情報を可視化し、他顧客の動向を元に推奨するという新しい販促(Promotion)手法を編み出した。LE TOTEはレンタルによって顧客の使用データを握ることで、「月額課金+買取り50%オフ」という新しい課金スタイル(Price)を提案している。

 ZOZOは、ZOZOSUITからサイズデータを、オンライン店舗から選択・購入データを、さらに顧客レビューとWEARから使用データを読み取り、他社にはできない魅力的なプライベートブランド商品を提案してくるだろう。それらはすべて、顧客とのつながりがなければ実現できないことである。これがチャネルシフターの、戦い方の本質だ。

チャネル変革はゴールではない

 チャネル変革は、大きな取り組みではあるがゴールではない。本当の戦いは、チャネル変革の先にある。

 これまでチャネルは、商品・価格、時には販促をも所与として、いかに現場でオペレーションするかという視点から最後に考えられることが多かった。しかし顧客とのつながりがマーケティング要素そのもの変える力を持った現在、そのつながりを創り出すチャネルは、単なる売り場づくりのオペレーション論で終わるべきではない。むしろ顧客とつながる時代における、新しい「戦略の基点」として認識すべきだろう。

 チャネルシフトはオンラインに基点を置く企業が、新たな顧客を獲得すべくオフラインへと進出する現象であり、同時にオフラインに持ち込まれた新しい戦い方である。

 競争の焦点は、もはやネットとリアルの融合ではない。そこで得た顧客とのつながりによって、マーケティング要素を顧客に対して最適化していけるかが問われていく。これからはオムニチャネルといったチャネル変革に留まらず、その先にあるマーケティング変革までを見据えた動きが、さらに活発化するだろう。

 今回で全6回にわたる連載は終了するが、筆者らはこれからも国内の多くのプレイヤーの動き、さらに海外ではアリババなどの動きにも注目していく。また機会があれば、それらについても紹介できればと思う。

 当連載で紹介したチャネルシフトという視点が、日本の小売の変革と発展に少しでもヒントになることを願って、一旦筆を置くことにしたい。

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