前回紹介したWarby Parkerなどのチャネルシフターは、オンラインとオフラインに無作為にチャネルを配置している訳ではない。顧客のどの行動データをどの程度把握するか、その戦略意図を持ち、その仕掛けとしてチャネルを配置している。
例えば本というカテゴリーにおけるAmazonは、チャネルを通して顧客の行動データをすべて把握できている。オンライン店舗を通じて顧客がどのような本を検討し選択したのかを、またオンライン店舗、kindle store、Amazon Booksなどを通じてどの本を購入したのかを、さらに特筆すべきはKindleというデバイスを通じてどの本を最後まで読んだのかまで把握できる状態にある。
つまりKindleを通して、顧客にとっての真のベストセラーとは何かが、分かるようになったと言える。
「対話」というもう1つのレイヤー
その結果、Amazonは、この各段階に顧客から提供される3つの行動データに対して、提案を投げかけることができる。ここで、顧客時間のフレームワークに、新たに「対話」というもう1つのレイヤーが現れる。
まず選択段階から得られる顧客の「選択データ」により、直接的には「販促提案」ができる。Amazonで検討する本を表示すると、この本を見た他ユーザーがほかにどんな本を見たのか、という関連情報が表示されるのがこれに当たる。これは顧客の選択段階での行動データを把握していないと、提案できない。
次に購入段階に得られる顧客の「購入データ」により、販促提案に加えて「価格提案」ができる。Amazon 全体の価格オファーとしてはPrime会員の特別価格があるが、Kindleはさらに明確である。Kindleのデバイスを保有し、さらにPrime会員になれば、月に1冊を無料で読める。
Kindle Unlimitedという定額制でKindleでの書籍が一定数まで読み放題になるプランも、購入者に対する強力な価格提案である。これも多くの顧客データから、平均的な書籍データの購入量などの購入データを把握していなければ、採算が合う価格提案をオファーすることはできない。
そして最後に、使用段階に得られる顧客の「使用データ」に対する提案である。この段階に至ると、顧客の選択・購入・使用データと、買い物行動におけるすべてのプロセスを把握していることになる。ここでは、商品提案が可能になる。「他の商品を薦める」といったことではなく、自社オリジナルの商品を作って提案することだ。顧客がどの本を最後まで読み、評価しているのかが分析できれば、顧客から高い支持を得られる小説や書籍を、独自に作り出すことも可能になる。Amazonが自ら作るかは分からないが、映像などでのコンテンツ開発を見れば、顧客の使用段階での評価履歴から、新しい商品を生み出そうという動き自体は活発だ。事実Amazonは衣類・家具・家電などの領域でプライベートブランド商品の開発を加速させている。