東京都三宅村は、伊豆諸島の1つである三宅島で、Bluetooth信号を発するビーコン端末とスマートフォンアプリを利用した多言語に対応した観光情報提供を、昨年7月から始めている。

 島内に20カ所以上ある観光案内板の中から、「観光客にとって島の入り口に当たる港や空港などに設置された6か所を選び」(東京都三宅村観光産業課観光商工係の浅沼誠二課長補佐)、ビーコン端末を設置。そのうえで、位置情報に基づいた情報をスマートフォンで表示できるアプリ「hubea(ヒュービー)」を観光客にダウンロードしてもらうため、アプリのダウンロード方法などを解説したA4サイズのチラシを製作。島の観光案内所や港、空港、東京・竹芝から三宅島に向かう定期船の船内などで配布した。同アプリはビーコン端末を開発したアプリックスが提供している。

 アプリをダウンロードした観光客が、島内6カ所の観光案内板にスマホを近づけると、ビーコン端末が検知して、プッシュ通知でそのエリアの地図情報などをスマホに示す。その地図内に示された観光地などをタップすることで、観光地や飲食店、宿泊施設に関する情報など、さらに詳細な観光情報が分かるページへ誘導するという仕組みだ。

島内に案内所は1カ所だけ

 三宅村がビーコンを活用した情報提供サービスを始めたのは、主に島を訪れる訪日外国人観光客の増加を狙ってのことだ。2020年の東京五輪開催を踏まえ、外国人観光客の増加が見込まれている。三宅島でも、「主に野鳥の生態を見学に来た欧米系の観光客を中心に、このところ外国人観光客は増加の兆しを見せている」(浅沼氏)。しかし、島内に観光案内所は1カ所しかなく、島内の宿泊施設や飲食店などで構成される三宅島観光協会のWebサイトや、島内に20カ所以上設置された地図を掲載した観光案内板は、日本語表記中心だった。多くの外国人観光客をさらに三宅島に招くには、観光情報の多言語対応がどうしても必要だった。

 そこで目を付けたのがビーコンの活用だ。hubeaは、ビーコン端末が検知したスマホで使われている言語に合わせて、日本語で表記された情報を自動翻訳して表示する機能がある。対応しているのは英語、中国語(簡体字、以下同)、韓国語などだ。例えば、英語を使用言語に設定している観光客のスマホには英語で、また中国語を使用言語に設定している観光客のスマホには中国語で、同じ観光情報を表示する。「これならば、地図案内板に英語や中国語、韓国語を併記するより、外国人観光客に分かりやすく情報を伝えることができる」(浅沼氏)。

ハイブリッドサインシステムが設置された三宅島の観光案内板
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ハイブリッドサインシステムが設置された三宅島の観光案内板

 導入と運用コストが比較的安かったのも、ビーコンの選択を後押しした。観光案内板には、主に自治体向けの案内板を製造する野原産業が開発した「ハイブリッドサインシステム」を設置した。これは、ソーラー発電システムを組み込んだLED照明器具の中に、ビーコン端末を組み合わせたもの。ソーラー発電システムからビーコン端末とLED照明に電力が供給されるため、1度設置したらどこかが故障しない限り、メンテナンスの手間とコストが基本的にかからない。

 また、スマホのアプリに表示される観光情報については、三宅村役場が直接発信することはせずに統括しつつ、一般社団法人である三宅島観光協会と提携して、観光協会のWebサイトの内容を活用して示すことで、コンテンツの制作コストを抑えることができた。

 サービス開始後に、島を訪れる観光客数、特に外国人観光客の数が増加しているかどうかは、「数値を測っていないので正確には分からない」(浅沼氏)。しかし、「三宅島でこんなことをやっているという情報が、マスメディアや観光客のソーシャルメディアなどで発信されて話題になっており、観光客、とりわけ外国人観光客は増えつつある」(浅沼氏)。他の自治体から今回の取り組みについての問い合わせも複数、寄せられているという。

 三宅村では今後、島内にある残りの案内板などにWi-Fi機器を設置し、島内を網羅したWi-Fi網を形成して観光客などの利便性をさらに高める考え。既に通信事業者などとの話し合いを進めているという。2020年に東京五輪が開催されることや、これまで平均して20年に1回、島の中心に位置する雄山が噴火しているという事実を踏まえ、観光と防災の両方の視点から、東京都に費用負担をまずは働きかけるという。そうして、「外国人観光客を中心に、現在3万人強という観光客数を、2000年に雄山が噴火する前の10万人弱にまで戻すことを目指す」(浅沼氏)。