今回の本誌読者無料セミナーの最後は、オルビスの通販営業部新規メディア企画チーム課長の西野英美氏が登壇。「楽しませてファン化!獲得だけじゃないオルビス流コミュニケーション設計」をテーマに講演を行った。

オルビスの通販営業部新規メディア企画チーム課長の西野英美氏
オルビスの通販営業部新規メディア企画チーム課長の西野英美氏

 オルビスは通信販売から事業を発展させたスキンケアの化粧品メーカーだ。コアターゲットは30代の女性で、年に1度購買するR12と呼ばれるアクティブ顧客が、事業を支えている。かつては電話、ハガキ、FAXがやり取りの主体だった同社の事業も、雑誌広告などによる訴求への転換を経て、現在のようにWebによるコミュニケーションが中心となってきた。冒頭、西野氏はこのように話した。

 「Webといっても広告枠を買って商品を露出するような『純広告』はもうやっていない。ユーザーの多くがスマートフォンだけを使ってモノを選ぶ時代になってきたからこそ、ブランドの輪郭をはっきりさせなければいけないし、ブランドへの共感や愛着を持っていただくことが重要になる。そうした中で、自社のカラーが打ち出しやすく、エモーショナルなコミュニケーションが取りやすいのがLINEの特徴で、現在は積極的に活用する戦略を取っている」

 現在、オルビスのLINE公式アカウントには約2500万人の友だちが存在する。これは日本で5番目の多さを誇るものだ。この友だちの数を実現するのにひと役買ったのが、白いネコをモチーフにしたキャラクター「うるにゃん」だ。同社は2013年にLINEスタンプの配布を開始。スタンプは新規の友だちの数を増やすために最も有効な手段だという手応えのもと、2015年より自社のオリジナルキャラクター、うるにゃんをスタンプに導入。その結果、現在も友だち数は右肩上がりの傾向をみせている。

うるにゃんの登場で共感度が向上

 うるにゃんの誕生により顧客の共感度は確実に高まってきた。企業が直接、情報を発信すると押しつけがましく見えるものが、うるにゃんを介することで受け入れられやすくなるという。

 「昨年のスタンプ配信キャンペーンの際、うるにゃんの“にゃん”にかけて2222のシェアを促すメッセージをタイムライン投稿したところ、その3倍以上まで一気に増えた。さらに年末のキャンペーン時には一桁増やして22222のいいねを目指すと言ったところ、それもあっさりクリアしてしまった。この爆発力はLINEならではのものだろう」と西野氏は話す。

 昨年からはMD(マーチャンダイジング)でもこのうるにゃんの活用を開始。キャラクターをモチーフにしたヘアキャップや泡立てネットなど、オルビスの商品と一緒に使いたくなるグッズを制作し、セットで販売した。これが顧客のSNSやブログなどでも紹介され、予想以上の反響を呼んだ。また月に4〜5回のメッセージと、月に10回程度のタイムラインへの投稿に加え、LINE NEWSやフリーポイントAD、LAP(LINE Ads Platform)などLINE内広告も積極的に活用を始めている。

 「LINE NEWSは審査を通すのが難しいが、シーズナリティを踏まえ、今後も積極的にやっていきたい施策の1つ。一方、フリーポイントADは、ポイント目当てや名前、住所などをすべて記入しないいたずらの客も多く、フルフィル面で苦闘した。LAPも、安定的にユーザーを獲得できるがクリエイティブの疲弊が激しいため、バランスを見て進めていく必要がある」と課題を述べた。

 そして今後は、CRM媒体としての活用をより進めていくという。顧客の要望や不満を待っているのではなく、企業からソーシャル上へそれらを取りに行き、先に解決しようという試みだ。

 「当社には電話やメールなど顧客対応に関する多くの実績がある。世の中がデジタル化しているからこそ、人肌感のある施策が有効だ。現在、FacebookやTwitterなどのSNS上では、サポートメンバーがリアルタイムで返信している。LINE上では人工知能(AI)の導入も始め、商品やサービスの基本的な紹介に活用し始めたところだ。スキンケアという専門知識が必要な分野だけに、まだAIの学習機能が追い付いていないが、こうした点も強化していきたい」

 そして西野氏はこれからの展望をこのように述べて、講演を終えた。

 「2500万人いる友だちの中でID連携してつながっている数はとても少ない。このコネクト数を増やすことに注力するのがいいのか。あるいは、メッセージやメルマガくらいのつながりを強化していくのが良いのか。そのあたりはまだ答えが見えておらず模索中だ。“まだ使ったことのない化粧品だが、いい生活が送れそうだ”とユーザーに思ってもらえる訴えかけができれば、コンバージョンとブランディングの両立は可能だと考えている」

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