A3には、その他にもオーディエンスの数、オーディエンスのアテンション・タイムの測定や、スクリーン前のオーディエンスの平均的な足取りなども測定する機能がある。これらの機能を活用し、コンバージョン率を導き出すことで、小売店頭だけでなく、OOHメディアの効率も測ることができる。さらにこれらのデータはクラウド上に蓄積されるので、企業はオーディエンスのデモグラフィックデータと統合して、リアルタイムで把握することが可能になっている。

 さて、ここで当然気になるのは、オーディエンスのプライバシーを侵害せずにどのようにデータ蓄積および分析するのか、という点である。Glueck Technologiesによれば、オーディエンスの画像イメージは保存せず、それらは関連データに変換されてクラウドに送られ、アナリティクスを通して分析され、メディア・オーナーや広告主にフィードバックとして提供される、という仕組みになっている。オーディエンスのプライバシーはこのようにして守られ、データは完全に匿名化されている。

Glueck Technologiesは「A2」(Adaptive Advertisement)という製品も提供
Glueck Technologiesは「A2」(Adaptive Advertisement)という製品も提供

 Glueck Technologiesは、A3とともに、A2(Adaptive Advertisement)という製品も提供している。これは、屋外デジタル広告(DOOH)のオーディエンス属性をキャッチし、事前にクライアントが設定したコンテンツ配信ルールに基づいて、オーディエンス属性によってコンテンツを切り替える、といった機能を提供するもの。日本でも今後急速に広がりを見せていくであろう「ダイナミックDOOH」(天気・気温などを含め、その場の状況に応じて、最も効果的なコンテンツをリアルタイム配信するDOOH)の一端をなす技術である。

 顔認識によってオーディエンスの属性を、感情も含めてキャッチし、それによってコンテンツの出し分けをする、というAI型のDOOHは、日本でも昨年末に、日本マイクロソフトと電通が提供を開始している。

多民族・多文化のコンテキストで開発

 Glueck Technologiesの取り組みが特に面白いのは、彼らがマレーシアという多民族・多文化のコンテクストで顔認識データを収集していることにある。多民族・多文化のコンテクストでサービス開発しているからこそ、人の表情と感情のひも付けや動作特性も含め、バラエティーに富んだ人・顔認証データが蓄積され、多様性に耐えうる分析力も蓄積していくことが期待される。Glueck Technologiesのウェブサイトによれば、現時点で、27万人以上の顔が分析されているという。

 マレーシアでは国を挙げてレギュラトリー・サンドボックス(より自由度の高い実験場)を用意し、官民が連携してスタートアップを育て、IoT、AIなど次世代技術の可能性を探り、事業化を推進する意気込みを見せている。日本では昨年あたりから議論がされはじめたレギュラトリー・サンドボックスは、マレーシアやシンガポールなど東南アジアの方が一歩先を行っている。国の後押しと、複雑系の学習を経て発展するであろうマレーシアのAIファーストマーケティングは、日本のインバウンドマーケティング現場でも力を発揮するのではないだろうか。

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