もはや、モバイルマーケティングがスタンダードとなっている現在、マレーシアではAI(人工知能)ファーストのマーケティングにフォーカスが当たっている。背景の1つに、IoT(インターネット・オブ・シングス)の進展がある。IoTが急速に広がるであろうこの数年間、マーケターはIoTをどのようにマーケティングに生かすかを探ることになるだろう。

 また別の背景として、国策によるIoTの推進がある。マレーシア政府は「ナショナルAI」、および「ナショナル・ビッグデータ・アナリティクス」という2つのフレームワークを開発している。そして大企業、中堅企業のデジタルシフトを進めるために、デジタル・トランスフォーメーション・ラボを設置し、企業向けにコンサルティングと、デジタル製品やサービスのプロトタイプ開発をサポートする、としている。

 こういった流れの一環で、今年の1月には、アリババがスマートシティAIプラットフォームをクアラルンプールに設置した。このプラットフォーム上で、都市のさまざまなソースから得られるデータから、機械学習のプロセスを経て、都市オペレーションのインサイトを引き出すことが可能になる。それを、例えば交通システムや地図アプリとドッキングさせ、バスのルートや頻度などを調整して運用効率を高めたり、セキュリティー上のリスクを抽出したりする。将来の道路網構想に役立てることも検討されている。

生活者データから学ぶ

 さて、AIファーストのマーケティングとは、「生活者の意向をいかに的確に迅速にアシスト、あるいはナビゲートするか」だと言える。そのためには、あらかじめ蓄積した生活者データからの学びを活用する必要がある。マレーシアという国は、民族構成が極めて複雑な国の1つである。マレー系、中華系、インド系が代表的であるが、地域特有の民族もいる。それぞれ宗教、文化、習慣が違い、さらに年齢性別や、所得階層でセグメントすると、生活者の意向と言っても限りなく複雑な分析と対応が求められるのは想像に難くない。そういった意味で、マレーシア現地のスタートアップ、Glueck Technologiesの取り組みは注目に値する。

 Glueck Technologiesは人の感情を総合的に読み取り分析するアルゴリズムや技術を開発している、2014年設立のスタートアップである。2017年のASEANライス・ボウル・スタートアップのディープテク・AI・ビッグデータ部門で優勝した実績を持ち、今後の成長が期待されている。

人の感情を総合的に読み取り分析するアルゴリズムや技術を開発している
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人の感情を総合的に読み取り分析するアルゴリズムや技術を開発している

 Glueck Technologiesが2015年にローンチした製品、A3(Advanced Anonymous Audience Measurement)は、店頭の買い物客の感情を、企業がリアルタイムで測定できるというものだ。製品には、カメラ、ソフトウエア、ダッシュボードが含まれる。そして、性別、年齢、民族属性(エスニシティー)、感情などにひも付く人の表情のデモグラフィック・データと照らし合わせて、買い物客がどういった気分なのかを分析する。

 これにより企業は、生活者がブランドや商品、サービスに対してどういった感情を持っているのかについて把握することができ、より効果的なマーケティング・キャンペーンを打つことが可能となる。ウェブプラットフォーム×AI、つまりIT×ITによるサービスはよく取り上げられているが、Glueck Technologiesが提供するビジュアル・アナリティクスは、店頭や対面といったリアルの世界においての可能性、つまりリアル×ITの可能性を広げるものである。