毎回1万超RTのハーゲンダッツ
ソーシャルメディアにおける消費者間での商品の推奨を効率的に発生させて、消費に結びつけたのが、アイスクリームメーカーのハーゲンダッツ ジャパンだ。消費行動スコア68.9を叩き出し、4位に入った。昨年の8位から4つ順位を上げたことになる。また、推奨スコアランキングにおいても68.8で5位につけた。

従来は一部の商品にとどまっていたTwitterと連動したプレゼントキャンペーンを、2015年は全商品にまで広げた。そうして消費者間でハーゲンダッツの新商品の情報がTwitterで広く伝搬されることを狙った。
「2014年はTwitter連動型のキャンペーンでも、コンテンツをきっちりと作りこんで実施してきた。ただ、ソーシャルメディア上のクチコミを見ていると、新商品の発売自体が非常に強いコンテンツであることが理解できた」
マーケティング本部の續怜子氏は、戦略転換の背景をこう説明する。実際、企業のソーシャルメディアの投稿を閲覧した結果、「友人・知人にすすめたい商品やサービスの話題が多い」と答えた人は27.0%で全企業・ブランドの中で3番目に高い。逆に「友人・知人にすすめたい商品やサービスの話題が全くない」と答えた人は4.0%で最も低い。ハーゲンダッツのソーシャルメディアアカウントの情報は、消費者にとって商品に関する情報の推奨意向が極めて高いことがデータからも明らかだ。
そこで、2015年はTwitter連動キャンペーンを全商品に広げる代わりに、戦略的な商品を除いてキャンペーンの設計を大幅に簡素化した。多くの新商品で展開したのが、ハーゲンダッツの公式アカウントをフォローして、キャンペーンのツイートをリツイートするだけで、新商品が当たるというもの。簡素化する分、当選者への景品は1人に同じ商品が100個当たるといった極端な内容にすることで話題喚起を狙った。
こうしたキャンペーンは、「毎回、1万以上リツイートされて、多い場合にはツイートの表示回数は1000万を超えるため、無料で非常に効率よく商品情報を伝搬できる」(續氏)。商品力とTwitterを組み合わせることで、消費者を通じて情報が伝搬され、結果的に消費につながった。この伝搬効果は商品単体のツイートでも発揮された。2015年2月の発売後、予想を大幅に上回る売れ行きから販売を一時休止した商品について、その後、12月に販売再開が決定したことを伝えるツイートは、5万5000を超えるリツイートにつながった。
ハーゲンダッツでは新商品の発売後、購入した人へのアンケート調査を実施している。新商品の認知経路として最も多いのは小売り業者の店頭での認知だが、SNS経由の伸びが著しく、「店頭経由に迫る勢いにまで高まっている」(續氏)など、影響力は高まっている。
2016年はこうした活動を継続しつつ、Instagramの活用に力を入れる方針だ。現在のフォロワー数は4万人程度にとどまっているが、既にInstagram上にはハーゲンダッツ商品に関する写真が数多く投稿されている。ハーゲンダッツが重点ターゲットに設定するF1層(20歳から34歳までの女性)の利用も多いため、相性もいいと考えられる。昨年から、「インスタグラマー」と呼ばれる人気ユーザーを起用したキャンペーンなどを実施しており、そうした活動をさらに活発化させる方針だ。


雪上走行体験を拡散したスバル
消費行動スコアは調査の性格上、数百円からせいぜい数千円で手が届く商品を扱う企業・ブランドが上位に入りやすい。つまりソーシャルメディア発の情報で衝動的に購入に至る可能性がほぼない自動車などは、どうしても不利になる。


だが本調査では、ソーシャルメディア発の情報に接触した後の変化として、「好感を持った、共感した」という項目があり、この回答者の割合から好感スコアランキングを算出している。消費行動スコアでは軒並み下位に甘んじる自動車メーカーだが、この好感スコアで唯一トップ10圏内の7位にランクインしたのが「SUBARU(富士重工業)」だ。
スバル国内営業本部マーケティング推進部宣伝課主任の安室敦史氏は「2015年は『安心と愉しさを』というキャッチフレーズでそれまでの機能訴求型から情緒訴求型へ切り替えた年だった」と振り返る。例えば衝突安全技術を訴求する動画ならば、以前は衝撃を軽くする車体の構造やその技術を説明していた。現在は、身重の妻を助手席に乗せて走るシーンを60秒動画で見せる「父になる」篇などで、安全技術に同社がかける思いを伝えている。こうした動画が軒並み再生回数を大きく伸ばした。
「フォレスター」などのSUV(スポーツ用多目的車)にスキーヤーを乗せてリフト代わりにゲレンデを駆け上がる雪上走行体験イベント「ゲレンデタクシー」も、今冬で3シーズン目を迎え好評を得ている。乗車希望者は、クルマの前で記念撮影した写真をTwitterやInstagramにハッシュタグ「#ゲレンデタクシー」付きで投稿すれば、無料で乗車できるというもの。「『去年、これに乗ったことがきっかけで買いました』という声も聞かれた」(安室氏)。
また、1月に「天空の城ラピュタ」がテレビ放映された際は、呪文の「バルス」をスバルに置き換えて笑いを取り、この手のネタでリードしてきたタニタのお株を奪う話題性の拡散を見せた。こちらは本アンケート調査終了後の取り組みだが、好感スコアが高いワケが理解できるだろう。
ソーシャルメディアの盛衰はもちろんのこと、消費者の消費意欲を後押しする活用法もまた変化が激しく、今年の必勝パターンが今後も通用するかは不透明だ。そうした変化を踏まえながら、自社のセールスポイントとソーシャルメディアの強みをうまく組み合わせて訴求できた企業が支持される。マーケッターにはたゆまぬ努力が求められる。

