いずれにせよ、スーパーボウルに限らず現状のニールセンの視聴者カウント方式は、テレビ局側が持っている「テレビのプレミアム番組の視聴者は減るどころか、逆に増えているのではないか」という仮説に、答えを出せていない。
「プログラマティック・ギャランティード」という名称で、昨年からCM枠販売に関する「プライベート・オンライン取引化」が始まっているが、これは実は放送局の「防衛自助努力」なのだ。放送局はニールセンのデータに頼らないサードパーティーのオーディエンスデータを付加して、自社番組の品質を保ちつつ(=数字を引き上げ)、自社のセグメントデータを基準としてギャランティード(=保証)する新たな売り方を始めている。
サタデー・ナイト・ライブの広告枠を3割削減
例えば米4大ネットワークの1つであるNBCUの看板番組「Saturday Night Live(サタデー・ナイト・ライブ、SNL)」は若年層の支持が非常に厚い番組であるが、この番組に関しては今年は視聴離れが起きないように「広告時間枠を30%削減する」と発表している。その代わりにNBCUの制作部がブランデット(ネイティブ)コンテンツを特定の広告主に提供するモデルにシフトしている。
SNLのコンテンツは電波だけでなく親会社コムキャストのパイプ(ケーブル、ネット、OTTなど)で分散配信を行い、さらにディストリビューション・パートナーとして投資しているAOL、BuzzFeed、VOX、Snapchatを通じても配信している。こうした分散配信先の全ての価値を含んだ「(ネイティブ)番組」の総視聴の数字が、配信の価値基準として求められている。単に動画広告「枠」の配信数をカウントするのではなく、「番組」を基準とした分散配信のカウントを求めていることが、大きな変化なのだ。

このネイティブ配信の観点からスーパーボウルを評価すると、インパクトを残したのはペプシとインテルだ。レディー・ガガのハーフタイムショーでは300機のドローンが空を舞い、ペプシのロゴを夜空に描いたシーンを見た人も多いだろう(実際は録画合成だが)。インテルはこのドローンのシステムスポンサーだ。両社は見事にハーフタイムショーのコンテンツの中に溶け込んでいた。
さらにFOXは試合視聴用のVR(仮想現実)アプリを登場させ、インテルは試合をしているプレーヤー目線の「3Dプレビュー」でスポンサード提供をした。番組に登場するペプシとインテルは、30秒枠にとらわれない「番組と歩調を合わせたコンテンツ価値の作り方」を全国規模で展開した事例となった。
いかに番組に溶け込むか

広告枠を選んで企業メッセージを配信するのではなく、オーディエンスを選んで配信する「枠から人へ」という概念がある。だがこの概念は、スーパーボウルに代表されるプレミアムなテレビ番組については当てはまらないのではないか。今回のスーパーボウルは、広告がいかに番組に溶け込むかが問われた「枠から番組へ」という新たなトレンドのお手本のような大会だった。
プレミアムコンテンツを開発する放送局は、その自社コンテンツの価値を、広告枠の販売ではなく、番組コンテンツそのものの中で顕在化する考えへとシフトしてきている。