米国プロフットボールの最高峰を決める第51回スーパーボウルの中継は、企業マーケティングにとっても最高峰と言える場だ。何と言っても「30秒で約5.5億円(約5百万ドル)」と言われるCM枠に流れる、50社を超える広告主の「アイデア」を一覧できる機会は、他にない。特に今年は、レディー・ガガがハーフタイムショーに登場するなど試合前から注目度が高かった。その上、試合そのものも歴史的な同点タイムアウトとなり、延長戦での大逆転決着という広告主には願ってもない舞台設定となった。

スーパーボウルで流れた「アマゾン・プライム・エアー」のCMのエンディング部分。小さな文字で「このサービスは一部の州では(いや実はどこでも)提供できておりません」とジョークを交えた注釈が入っている
スーパーボウルで流れた「アマゾン・プライム・エアー」のCMのエンディング部分。小さな文字で「このサービスは一部の州では(いや実はどこでも)提供できておりません」とジョークを交えた注釈が入っている

 中でも特に注目されたのは、アマゾンだ。まだ開始されていないドローンを使って空輸で配達する「アマゾン・プライム・エアー」の新サービスのCMを放送した。CM中の登場人物が音声認識技術「アレクサ」を搭載した入力端末「アマゾン・エコー」に向かって、スーパーボウルではお馴染みのスナック菓子「ドリトス」を注文するというストーリーだ。アマゾンはなんと通常の30秒ではなく、10秒×3本という技あり出稿をした。一方、グーグルはエコー&アレクサと競合する「グーグル・ホーム」のCMを30秒の倍の1分間流した。

プレミアム番組の価値は下がっているのか

 CMの詳しい品評は他メディアに譲るとして、日本人のマーケティング目線で注目すべき点は、コンテンツの価値基準と評価計測の変化である。今年の独占放送局であるFOXは、スーパーボウルの放送時間の23%に相当する51分30秒もCM枠を取り、約561億円の広告収入を得たと見られている。時間の長さも金額も、FOXの放送局記録であり、過去最高でもあるようだ。

 その一方でスーパーボウルの視聴者数は、減少傾向にある。ニールセンが発表した視聴者数は2015年の1億1440万人をピークに、2016年は1億1190万人、2017年は1億1130万人と漸減している。レディー・ガガのハーフタイムショーと歴史的な同点試合をもってしても、この流れを変えることはできなかった。

 スーパーボウルの母体であるNFL(米フットボールリーグ)の昨年1年間の全試合の平均視聴率も、前年比で9%落ちている。スポーツ専門チャンネルESPNの契約者数も年々減少し、昨年11月の月間解約数は62万1千世帯に達したという。現状の年間当たり解約数は350~400万世帯と予想され、このペースが加速するのではと思わせる減少ぶりだ。ちなみにESPNの2017年の全契約数は8600万世帯と予想されている。

テレビ視聴数の減少原因はNetflixか

 視聴者は減っているのに、広告枠の単価は上がり、放送局の広告収入も増えているという事実を、どう解釈すれば良いのだろうか。

 「テレビ」の視聴者が減っている理由として、一般的にはNetflixやYouTubeに代表される視聴コンテンツや視聴形態の多様化が挙げられる。しかし米国の放送局は別の見方をしており、「視聴に対する計測の方法」と「番組コンテンツの価値の作り方」に改善すべき点があると考えている。

 スーパーボウルのテレビ視聴者数を例にすると、これは「生の視聴」をカウントした翌日発表のデータであり、録画視聴は含まれていない。日本ではようやく昨年あたりから採用されはじめた録画視聴のカウントは、米国では約10年前からある。ニールセンが開発した放送後3日以内の録画によるCM視聴をカウントする「C3」指標と、同7日以内の「C7」指標が、放送局と広告主・エージェンシーの間で採用されている。

 しかしこのC3/C7指標は、計測の時間軸を長く伸ばしただけと言えるもので、近年のモバイルを含めたデジタルデバイスでのストリーミング視聴数に関しては大きく取りこぼしている。例えばiTunes、Hulu、YouTubeなどでの視聴や、FOX.comやABC.comといった放送局の自社サイトでの視聴を適切にカウントしているとは言えない。

 このような取りこぼしに対する放送局側の不満を横目に、ニールセンは独自方式でストリーミング放映の1分当たりの平均視聴者数をカウントしている。スーパーボウルであれば2015年は80万人、2016年は140万人、2017年は172万人と発表している。

 放送局が、「なんとしても視聴者数を上積みしたい」と、この人数をテレビ視聴者数に加えてみても、やはり2017年の視聴者数は2015年のそれには及ばない。そもそも、両者は算出基準が違うので、単純に合算することはできない。テレビとストリーミングを同時視聴している「重なり」も考慮されていないという問題もある。