流通大手ベイシアグループの中核企業でホームセンター事業のカインズ(埼玉県本庄市)が、消費者が家具などを作ったり修繕したりする際の手助けとなる「DIY動画」を活用し、自社のブランディングとリアル店舗への集客を目指したコンテンツマーケティングに力を入れ始めた。

 「CAINZ DIY STYLE」という特設コーナーを、昨年10月からカインズ企業サイトのトップに配置。「木材で作るヴィンテージ風コーヒースタンド」や「すのこで作るオシャレで快適なローボード」など、こんな手作り家具が自宅にあったらいいなという家具を作るDIY動画を、次々にアップしている。

CAINZ DIY STYLEと名付けて多数のDIY動画を公開
CAINZ DIY STYLEと名付けて多数のDIY動画を公開

 ポイントは動画の作り方にある。DIY動画というと、実際の作り方を丁寧に説明するイメージだが、カインズのDIY動画はそうではない。平均で30秒ほどと短く、ナレーションや字幕スーパーも極力付けない。「詳細な手順を教えるのではなく、DIYでこんな家具を自分で作れる、それによってこんな生活ができる、というイメージを伝えることを重視している」(販売促進部メディア企画グループグループマネジャーの大澤寛彰氏)。

 カインズがこうした方針を採る背景には、2つの事情がある。まず同社は以前、店頭で販売している商品の組み立て方や使い方を詳細に解説したハウツー動画をサイトに多数アップしてきた。ハウツー動画は再生回数こそ多かったものの、「競合他社も同様の取り組みをしており、カインズとしての特徴を打ち出しにくかった」(大澤氏)。

 また2014年からカインズは、「安くて質の良い商品を売るにとどまらず、カインズの商品を使うとこんな生活が楽しめると消費者に実感してもらうこと」(大澤氏)に力を入れ始めた。このため、調理や掃除をしているとき、また居間でくつろいでいるとき、思わず鼻歌が出てくるほど気持ちよい生活を実現するという意味で、「くらしに、ららら。」を自社ブランドを示す標語として掲げている。

 そこで、あえて詳細な作り方を示さないことで他社の動画コンテンツとの違いを打ち出しつつ、気持ちよい生活の重視というカインズの姿勢を消費者に理解してもらうために、「これなら自分にも作れそう」と思わせるイメージ重視のDIY動画を、前面に打ち出したのである。

年内に300本以上を制作し公開

 2月9日時点でサイトにアップされているDIY動画は42本だが、制作済みのDIY動画は既に150本ある。「今年中にさらに300以上のDIY動画を制作し、順次サイトにアップしていく計画だ」(大澤氏)。特設コーナーでDIY動画を見た、特に30代後半から40代の女性に「気持ちよい生活=カインズ」「DIY=カインズ」と想起してもらってリアル店ヘ足を運んでもらい、リピーターへと育成することを狙っている。またDIY動画のページには、動画で使った商品の写真をクリックすると、自社EC(電子商取引)サイトの商品ページに飛ぶボタンを配置し、消費者の購入意欲を刺激している。

 もっともDIY動画の再生回数は、「最もよく視聴されたハウツー動画の約10分の1ほど」(大澤氏)と、思ったよりも伸びていない。計画通りDIY動画の本数を増やすとともに、InstagramやFacebookの自社アカウントへのDIY動画の投稿も増やす。さらにインフルエンサーを活用した、DIY動画の認知向上策も検討していく方針だ。

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