全記事の非公開化に追い込まれたディー・エヌ・エー(DeNA)の健康情報サイト「WELQ」の騒動に端を発するキュレーションサイト問題の余波が続いている。2月3日にはグーグル日本法人が、低品質の記事を量産する一部のキュレーションサイトに対し、検索結果順位を下げる対策を実施し、ウェブマスター向けの公式ブログでその趣旨を説明した。
そんな“火中”というか渦中に、キュレーションサイトを新規オープンする企業が現れた。ベジタブルキュレーションサイト「VEGE DAY ~毎日の生活を、野菜でたのしく。~」を始めたカゴメである。野菜の「健康効果」「食べ方」「選び方・保存方法」「育て方」の4ジャンルで記事を発信していく。自社商品の販促目的ではなく、記事内でカゴメ商品の紹介は一切しない方針だ。
なぜこのタイミングでキュレーションサイトなのか。同社は2016年からスタートした中期経営企画で、10年後のカゴメ像として「食を通じて社会問題の解決に取り組み、持続的に成長できる強い企業」を掲げ、そのために「『トマトの会社』から『野菜の会社へ』」をスローガンに、事業領域を広げようとしている。
日本が抱える重要な社会問題の1つとして挙げられるのが、膨らむ一方の医療費や介護費だ。これを抑制しながら健康寿命を伸ばすためには、食生活の見直し、特に野菜の摂取量がカギを握る。厚生労働省が提示している成人一人一日当たりの野菜目標摂取量350グラムには、どの年代も届いていないのが現状だ。
社会の課題の解決と自社のさらなる成長とが合致するという意味で、カゴメにとって野菜を手軽においしく摂取するための知恵や工夫といった情報の提供は価値を持つ。VEGE DAYはこの役割を担う。同社は、学校向けの食育イベントなどCSR(企業の社会的責任)に積極的だが、VEGE DAYはそうした慈善的なものより、社会的ニーズを自社の事業戦略に組み込むことで、問題を解決しつつ自社の持続的な成長につなげるCSV(共通価値の創造)の考え方に立って発信している。
慎重すぎるほど慎重なコンテンツ制作体制で臨む
キュレーションサイトを名乗ることについて、同社マーケティング本部広告宣伝部の重友大輝氏は、「キュレーションは本来、そのジャンルの“目利き”、“専門家”であるキュレーターが、価値あるものや情報をセレクトして発信するもの。野菜を日々研究しているカゴメが、専門家として有用で信頼できる情報をお伝えすることで、野菜をもっと好きになってもらえる、そして健康でいられる。そんなサイトを目指したい」と説明する。
DeNAと対照的にカゴメのコンテンツ制作体制は慎重すぎるほど慎重だ。同社の研究部門に蓄積されている、約140人の研究員が進めてきた野菜の品種や成分についての研究や商品開発の成果を基に、さらに外部の文献や研究結果、専門家への取材を経て、記事化に取り掛かる。テレビや料理雑誌でも活躍中の栄養士を監修者に迎え、外部文献については引用の許諾手続きを取り、コンテンツについては広告制作物の品質管理と同等のチェック体制で表現に指摘を入れる。例えば、効能をうたう表現では本当にそう言えるのか、逐一エビデンスを求める、といった具合だ。
オープンに当たって40本の記事を用意した。各野菜の同時検索語からニーズを探り、編集会議で記事化テーマを決める。月10本ペースで記事を追加していく予定だ。今後、キュレーションニュースプラットフォームなどに記事を提供することで、VEGE DAYの記事が広く読まれるよう、交渉を進めているという。自社商品をあえて紹介しない企業発のオウンドメディアは、化粧品などでは一部あるものの、飲料・食品メーカーでは珍しい。カゴメ発の野菜メディアが、地に落ちた「キュレーション」という言葉のイメージを回復させるかもしれない。