デジタルマーケティング支援会社のアイ・エム・ジェイ(IMJ、東京都港区)が、主に北米、欧州、東南アジアといった英語利用圏から日本を訪れる訪日外国人客を特定して、そこにインターネット広告を配信するサービスを、1月15日から提供し始めた。
インバウンドマーケティングサービスと銘打ったそのサービス名は「wanokoto」。仕組みはこんな具合だ。まず、外国人向けに日本の情報を発信しているWebメディアや、国内の商業施設のWebサイトなど多数の「訪日関連メディア」とデータパートナーとして提携し、パートナーのメディアを訪れたユーザーについて、Cookieやサイト上の行動といったデータをIMJが収集・取得する。その際、日本語ページを主に閲覧したユーザーのデータは取り除いたり、取得したGPS(全地球測位システム)のデータを用いたりして、訪日を検討している外国人客のみを対象に絞り込む。

これらの収集したデータをIMJのwanokoto DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)に蓄積して分析。GPSを使って、外国人客が訪日前なのか、既に訪日中なのかを判定しながら、広告主のニーズに合うように外国人客をセグメントし、主に外国人客のスマートフォンや利用するパソコン向けに広告を配信する。
例えば、訪日前にある商業施設のWebサイトをよく閲覧していた訪日外国人客が、GPSデータの判定で来日したと特定できたら、その外国人客に対して当該商業施設の広告を配信し、来場を促す、といった使い方がができる。
サービス開始当初は、外国人客のセグメント範囲は、訪日前か訪日中か訪日後かという時系列別と、国別・使用言語別、それに訪日中に限ってエリア別というセグメントにとどまる。年齢・性別といった属性は、DMPへ蓄積しているものの、今回のサービスではセグメントの対象にしていない。
またIMJがこれまで手がけてきた顧客企業のWebサイト、それも英語版や繁体字版を制作してきたノウハウに基づき、配信する広告のクリエイティブについて、「どの国民にどんなクリエイティブの内容が受けるのか、宗教上などの理由で絶対にやってはいけない表現はどんなものか、などについてコンサルティングができる」(IMJ新規ビジネス開発室の谷島貴弘・事業開発プロデューサー)のも、今回のサービスの強みになる。
将来に備え、外国人客のデータを収集・蓄積
IMJが今回、主に北米、欧州、東南アジアといった英語利用圏から日本を訪れる訪日外国人客だけに広告を配信できるサービスを始めた主な理由は2つある。
まず、訪日外国人客に情報を届けたい広告主からのニーズが確実に見込め、新規事業として成り立つ可能性が高かったからだ。ただし、中国からの外国人客については、広告主からのニーズは高いものの、今回は対象に加えることを見送った。「中国政府がネット上に“障壁”を築いており、訪日前の中国人客に広告を配信するのが難しい」(谷島氏)というのが理由だ。加えて、中国からの訪日観光客はまだ団体客が多く、広告を配信して態度を変容させても、旅行スケジュールを変えて対応できるケースがまだ少ないという事情もある。
今回のサービスを始めたもう1つの理由が、「wanokoto DMPに外国人客のデータを蓄積し続ける仕組みをつくること」(谷島氏)にある。少子化による人口減少で将来の日本市場は収縮が決定的。日本企業が成長を求める場合、一般的には海外市場へ進出するか、インバウンド需要を取り込むしかなく、どちらの場合でも外国人ユーザーのデータが重要になる。そこで、常に最新のユーザーデータをいち早く自社のDMPに蓄積できる仕組みを構築し、将来はこのデータを顧客に提供して収益につなげようと考えた。
今のところ、訪日外国人客を月間200万人と想定した場合、IMJの今回のサービスを使って同50万人以上に広告を配信できるという。将来はこれを100万人以上に引き上げ、訪日外国人客の50%以上のデータを常に収集・取得できるようにすることを目指す。
まずは「3年以内に小売業を中心に広告主100社から採用される」(谷島氏)ことが目標。その後は、第三者が抱える外国人客の経路情報(どのルートを通って移動したか)や購買情報と組み合わせ、ターゲティングの精度を向上させていく計画だ。