世の中に商品はあふれるほどある。売り手である小売り企業は、商品を1つでも多く売りたいと考えるが、企業間競争は激しく、すべての商品が思惑通りに売れるわけではない。売れる商品は店頭での売場や広告宣伝費が大きく確保されるが、売れない商品は早々に店頭から姿を消してしまう。不良在庫は経営にとって悪だからだ。

 前職の良品計画は、商品のSABCランキング分析が徹底されており、そうした見切りが早かった。売れるSAランク商品はいち早く欠品防止に入る一方、BCランク商品は当然のことながら在庫削減、発注停止の対象となった。求められていたのは、販売計画の時点から集中的に売り込みをかけられ、売り上げの最大化に貢献するSランク商品の開発だ。他の企業でも新商品は、こんな思惑とともに上市されるのではなかろうか。

 しかし一旦、売れない商品との烙印が押されながらも、顧客の声で救われた商品があった。売れない=販売完了とならなかった商品が意味するものは何か。今回は顧客とつながることで命を吹き返した商品を材料にエンゲージメントコマースについて考えてみたい。

15年近い超ロングセラーのSランク商品も

 良品計画は消費者を巻き込んだものづくりが得意である。ネットストアのオープンと同じ2000年に「モノづくりコミュニティー」を開設し、まだソーシャルメディアなどない時代に、ネットで消費者の声を募って商品を開発し、多くのヒット商品を生み出してきた。例えば「人をダメにするソファー」として有名な「体にフィットするソファー」は、もう15年近く販売を続ける超ロングセラーのSランク商品だ。

 しかし消費者参加型のものづくりは、多くの時間と労力が必要で、100アイテム、200アイテムを一気に開発することはできない。無印良品でも消費者参加型で開発した商品は、全体の一部にとどまる。

「シリコーントレー/ビー玉」は現在もネットストアで販売されている
「シリコーントレー/ビー玉」は現在もネットストアで販売されている

 そこで2009年に「くらしの良品研究所」を、2011年12月には「ご意見パーク」(現IDEA PARK)を設けて、商品づくりに消費者の声を反映するプラットフォームとしての機能を進化させた。消費者からの意見や要望と、それに対する無印良品からの回答を公開することで、より多くの消費者と情報を共有できる場へと育ててきた。

 ご意見パークを開設した初年度に寄せられた意見は、商品に関するものが96%と圧倒的に多かった。注目すべきは、その中でも販売が終わってしまった商品の再販を希望する意見が40%を占めた事実である。企業は、こうした場を通じて「お客様が欲しいと思う商品を、具体的に企業に提案してくれること」を期待するが、実際にはなかなか難しい。顧客の声は基本的に、企業が上市した既存商品に対するコメントが多くなるのだ。

 先に触れた、顧客の声で復活した商品とは、ビー玉のような丸い氷が作れる「シリコーントレー/ビー玉」という名称の製氷トレイのことである。店頭ではさっぱり売れず、Cランク商品として早々に売場から消えたが、再販を望む声は多かった。そこでくらしの良品研究所の担当者が担当部署に再販を要請したのだが、あっけなく断られてしまった。理由は明白で、店に置いても売れないからだ。売場のスペースは限られている。

 しかし担当者は諦めず、ネットで見つけてきた個人のブログを、今度は(ネットストアを統括していた)私に見せに来た。この製氷トレイを使って、レジン(樹脂)のアクセサリーを作ってみたというブログである。これを見て私は、「今度は、ネットストアで販売しましょう」という担当者の提案をすぐに了承した。ネットであればロングテールに耐えられるし、店頭を“汚す”こともないからだ。

 2012年3月中旬に、ご意見パークで(再販を)「検討中」と表示し、4月末には500個の数量限定&ネット限定で売り出したところ、2日間で完売した。その後、6月末にも500個を売り出し、今度は1日で完売。そうした経緯から、9月にはそれまでの約4倍の商品を準備し、お1人様5個までの限定付きながら、ネットストアでの継続販売を決めた。このトレイでジュエリーを作っているユーザーを発見した、担当者の目利きの勝利と言えよう。

 継続販売になったとはいえ、無印良品の看板商品になったわけではない。売り上げ貢献という意味では、相変わらずのCランクだ。それでも「理由は分からないが、売れてないから販売をやめる」ことと、「売れる理由が分かったこと」との違いは大きい。理由が分かれば、同じ理由でこの商品を欲しい人を最低生産ロットの数だけ集めればよいことになる。「値引きをしないで、作った分を定価で販売できるCランク商品」として販売を続けることが可能になるわけだ。これを、私の考える「顧客時間」の概念で整理すると、以下のようになる。

User Innovation(共創)よりもUsage Innovation(用途開発)を

 顧客が商品を購入した理由が分かれば企業はさまざまな手を繰り出せる。売れる商品をより売れるように工夫できるだけなく、シリコントレイのような売れない商品でも、適切な策を講じることで損を出さない売り方ができる。

 シリコントレイの場合は、ブログを通じて消費者の「使用&消費」の状況を知ることが、商品の新たな用途を見出すことにつながった。検討→購入→使用&消費のプロセスではなく、購入→使用&消費→検討という流れを把握したところがポイントだ。もちろんシリコントレイでアクセサリーを作ることを、無印良品は品質保証の観点からオススメはしていない。しかし、このような顧客が存在することを知り、売れない商品が生き残ったことは素晴らしいことだ。

「優れたCランク商品」では、顧客時間のどのフェーズが重要か
「優れたCランク商品」では、顧客時間のどのフェーズが重要か

 顧客という「もう一人のマーケター」から学び、ネットストアだからこその顧客を特定したロングテールマーケティングを展開する。これこそ、エンゲージメントコマースの醍醐味だと言えるだろう。顧客と時間を共有することでCランク商品にもスポットライトを当てることができ、商品開発のアイデアにもつながる。

 企業が一方的にコミュニケーションを取ろうとする時代は終わり、顧客とともに価値やサービスを共創する時代になっている。BtoC(消費者向け)のコミュニケーションはなくならないし、企業がワクワクする商品を提供し続けることに私は期待しているが、同時に、「B with C」の関係性を作り上げ、顧客とともにマーケティングをしてビジネスを作り上げる時代にも入っている。次回からはこの顧客時間の概念を国内外の事例へと展開し、さらに深く顧客時間とエンゲージメントコマースの重要性を解説していきたいと思う。