トヨタ自動車の国内販売事業本部が、デジタルマーケティングへの取り組みを強化する。昨年1月にデジタルマーケティング部を設けたのに続き、今年1月には、デジタルマーケティング施策の導入を円滑に進めるため、働き方変革室を設置した。同室は、日本全国に約5200店あるトヨタ傘下の販売店(ディーラー)における従業員の働き方について検討し、新しい働き方を提案していく部署である。
なぜ、この働き方変革室がデジタルマーケティングの強化につながるのか。そこには、リアルな販売店を顧客との接点として重視する、トヨタならではのデジタルマーケティングに対する考え方がある。
トヨタの国内販売事業本部がデジタルマーケティングに本腰を入れ始めた背景には、「トヨタの開発力を発展させるには日本国内で300万台の生産、150万台の販売が必要だが、従来のやり方ではこの数字を維持できないという危機感」(デジタルマーケティング部の浦出高史部長)がある。
そこでトヨタは昨年、近い将来にすべてのトヨタ車をネットワークにつなげ、かつ顧客の目線に立ったものづくりを志向することで、魅力的なクルマやサービスを作り、生産・販売台数を維持するという方針を盛り込んだ「J-Re BORN計画」を発表。「OneID TOYOTA」と銘打って、販売店やトヨタ本体、クレジットカードを発行するトヨタファイナンスなどが別々に管理していた顧客IDの統合と、顧客目線に立った新しいサービスの開発に向けて動き出した。統合された顧客IDに基づいて顧客データを分析し、ニーズを把握してクルマや新たなサービスの開発に生かそうというのだ。そうしてトヨタに対する顧客ロイヤルティーを高めるのが、デジタルマーケティング部の大きな役割である。
TOYOTA NEXTを始め、新しいサービスの開発に着手
デジタルマーケティング部で新しいサービスを開発した場合、「そのいくつかは販売店に導入され、現場で活用される」(浦出氏)。そうなると、販売店の従業員の働き方も変わることになる。例えば、新しいサービスを活用するため、販売店の従業員が、店頭に来ないまま自宅や移動中にソーシャルメディアなどを使って顧客と頻繁にやり取りしたり、販売店以外の場所で、顧客が求めるクルマ関連以外の商材を扱ったりするようになる可能性があるからだ。しかし、今の販売店は、「そうした新しい働き方にすぐに馴染めそうにない」(浦出氏)。そこで、新しいサービスが販売店にスムーズに導入され、活用されるように、一足先に働き方変革室を設けて、販売店の従業員の働き方の変革を検討しようと考えたのだ。

既にデジタルマーケティング部は昨年12月、トヨタの歴史上初めて外部からアイデアを広く募り、共同でサービス開発を図るオープンイノベーションプログラム「TOYOTA NEXT」をスタートさせ、顧客目線に立った新しいサービスの開発に着手した。あらかじめ掲げた5つのテーマに沿ったサービスのアイデアを、社外の企業や研究機関、個人などから幅広く募って選考。最終的に選んだアイデアに基づき、応募者と共同で具体的なサービスの開発に取り組む。
その5つのテーマの中の1つとして、「全国のトヨタ販売店を通じて提供するディーラーサービス」が掲げられている。顧客との接点である販売店の機能強化も同時に進められるサービスを開発するのが、このテーマを掲げた狙いだ。今回の試みが具体的にどのような形になるかは、TOYOTA NEXTの最終選考結果が明らかになる今年7月末以降に明らかになる。