自らチャネルシフトを起こすために、どのような視点でチャネルを設計すれば良いのか。単にチャネルをオンからオフへ、オフからオンへと移行させることに価値はない。顧客視点に立ち、提供する購買体験を思い描き、その実現のために自社が強みを持つチャネルを組み合わせることが求められる。

 そのためのフレームを、ここで図示しておく(下図)。これは筆者・奥谷が提唱してきた顧客時間を軸とし、オンラインとオフラインの双方のチャネルによって、購買体験をデザインするためのフレームである。買い物における時間と空間によって、どのような購買体験をつくるのかを俯瞰して描けるようにしている。いわば、顧客時間のフレームワークの新バージョンだ。

顧客時間を軸とし、オンラインとオフラインの双方のチャネルによって、購買体験をデザインするためのフレーム
顧客時間を軸とし、オンラインとオフラインの双方のチャネルによって、購買体験をデザインするためのフレーム

 このフレームワークを使って、チャネルシフトを実践する企業が、時間と空間の壁をまたいで、どのように独自の購買体験を作り出しているのかを見てみよう。

 事例として取り上げるのは、2010年に創業した米国のメガネブランド、Warby Parkerだ。ビジネス雑誌「ファスト・カンパニー」が選ぶ2015年「最も革新的な企業ランキング」で、Warby ParkerはGoogleやAppleを抑えて1位に輝いている。革新性の真髄は、そのチャネル設計にある。従来オフライン店舗で選択・購入することが当たり前だったメガネ業界に、ネットとリアルの融合による新しい購買体験を実現したのだ。

「最も革新的な企業ランキング」で1位に輝いた米メガネブランドWarby Parke
「最も革新的な企業ランキング」で1位に輝いた米メガネブランドWarby Parke

 Warby Parkerは、米国各地に通常の店舗に加えてショールームを構え、店頭在庫なしでの店舗オペレーションを展開している。顧客は店員のアドバイスを受けながら商品を選んで試着し、気に入ったものが見つかれば店のiPadから発注する仕組みだ。つまりオフラインで選択し、オンラインで購入するという仕組みを取り入れている。

 オンラインに軸足を置く企業でありながら、Warby Parkerのオフラインでの体験重視のチャネル設計は徹底しており、顧客が店舗に来ない場合でも、その購買体験の中にオフライン体験を組み込んでいる。それが自宅でメガネの試着ができる、「HOME TRY-ON」という仕組みだ。

Warby Parkerからもコメント

 まずサイトで簡単な質問に答えると、Warby Parkerがメガネをレコメンドしてくれ、自宅に5つまでサンプルを無料で送ってくれる。自宅に届いたサンプルは、一定の日数、使用してみることができる。メガネは大きく印象を変えるアイテムなので、いろいろな服と組み合わせて試し、人の意見を聞いてみたくなるものだ。そこでWarby Parkerは、サンプルを使ってみて自撮り写真をSNSにあげるように推奨している。Warby Parkerのハッシュタグを付けて投稿すると、友達だけでなく、Warby Parkerからもコメントがもらえるという仕組みだ。周囲の反応も参考にして一本を選んだら、オンライン店舗で視力検査の結果をつけて購入する。サンプルはすべて送料無料で返品し、手元には真新しいメガネが届くというわけだ。

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