「何人、何回」から「何回」のみへ。そんな、小さな変更を宣言した後の会場の空気は、今後の道のりが平坦ではないことを予感させるものだった。
1月29日、日本アドバタイザーズ協会(東京都中央区、JAA)は昨年から開発を続けている、テレビCMとデジタル広告とを一括把握できる新しい指標、(「流通企業との取り組みにおけるテレビとデジタルの商談用共通指標」)の詳細を発表した。会場となった東京・中央区のホテルには大手広告主などJAA会員が多数集まり、JAAは急遽サテライト会場を用意することになった。この一事からも新指標に対する注目度の高さがうかがえる。
本誌既報の通り、昨年12月時点の当初案では「何人に、何回表示するか」というデジタル広告で使われる“尺度”でテレビCMのGRP(延べ視聴率)を換算。デジタル広告の出稿量と合算するとしていた。その合算値で、消費財メーカーが流通企業などに新製品プロモーションの規模を説明し、取引量や店舗の棚割りの参考にしてもらうという意図があった。
この説明会はそれを会員社に理解してもらうためのもの。だが、指標開発の責任者である小出誠デジタルメディア委員会委員長(資生堂ジャパン)は、「何人、何回」ではなく「何回」という到達総人数のみに変更すると説明。これが意外な反応を呼ぶことになった。
なぜか。それはテレビCMの接触人数はユニークだが、デジタル広告はデバイスやプラットフォームで重なりが多く、ユニーク数ではないこと。そのため新指標ではテレビCMとデジタル広告を人数表記するのは適切でないため見送るというものである。また調査会社ビデオリサーチが作成し、早ければ1月中にも会員社に配布できるとしていた「テレビのGRPをデジタル広告の出稿量に変換する換算表(Excel)」も2月上旬以降に変更となった。
CMの価値が伝わらない、との声も
こうした小出委員長の話を聞いていた会場の空気が変わったのは、出席者による質問が始まってすぐのこと。
曰く、テレビCMとネット広告とでは、閲覧人数が同じでも価値は違う。この指標ではテレビCMの価値が流通企業に伝わらないのではないか。あるいは、流通との商談は10分程度しか取れないのが普通。ネット広告まで説明する時間はなく、この仕組みは現実的ではない、といったもの。いずれも質問というより反対意見表明のような発言である。この意外な展開に互いに顔を見つめ合う参加者もいたが、小出委員長は、この新方式で関係者の理解を得ていきたいという方針を宣言。説明会は終了した。
この新指標が実際に使われるのはこの春。2018年夏・秋ものの商戦からとなる見込みだ。その商談の場でどれほど利用されるのだろうか。
「デジタル施策の中身や量が、店舗への来店や商品の売れ行きを左右することもある時代なのに、デジタルがほとんど考慮されない状態で良いのか」(小出委員長)。こうした問題に対する関係者の本気度が問われることになる。