紳士服などビジネスウェア専門店チェーン大手のAOKI(横浜市)が、AOKIブランドの自社EC(電子商取引)サイトに、顧客ニーズに合わせた情報をポップアップなどで表示するマーケティングツールを導入し、売り上げ増につなげている。スーツのカテゴリーごとに、「2017年秋冬シーズンのオススメのスーツ」をあらかじめ設定し、ユーザーがECサイト内の特定のカテゴリーのページを訪問すると、設定済みのそのカテゴリーでオススメのスーツの情報をポップアップで表示している。

スーツのカテゴリーごとに、「オススメのスーツの情報」をサイト右下にポップアップ表示する
スーツのカテゴリーごとに、「オススメのスーツの情報」をサイト右下にポップアップ表示する

 使っているのは、マーケティング支援会社エフ・コード(東京都千代田区)のWebマーケティングツール「f-tra(エフトラ)」。2017年10月からポップアップ表示を始めたところ、「ツールだけの効果とはいえない」(AOKI EC・デジタル推進部 AOKIインターネット通販 責任者の澤田陵氏)ものの、2017年10~12月期のECサイトのスーツの売り上げが、前年同期に比べて約20%増加したという。「顧客1人ひとりに合わせた完全なレコメンドではないが、このシーズンは何が流行るのかに興味を持つユーザーのニーズに合致し、疑似レコメンドとして機能したから」と、澤田氏はツールの効果を語る。

 併せて、「AOKIのECサイトのイメージを変えられた効果も大きい」(澤田氏)という。これまでのAOKIのECサイトは、掲載された多数のスーツの中から、ユーザーが自らの好みに合ったものを自身で選んで購入するというスタイルだった。今回の試みで、ECサイトの側からユーザーの欲する情報を発信することができた。「ユーザーにも好意的に受け止められている」(澤田氏)という。

2016年から実践してきた知見が生きた

 実はAOKIがECサイトにマーケティングツールのf-traを導入したのは、2016年8月。AOKIの最大の強みは、「スタイリストと呼ばれるリアル店舗の販売員によるお客様の買い物サポート」(澤田氏)にあった。ところがECサイトではこの強みに頼れない。何とかしてECサイトを訪問してくるユーザーの買い物をサポートしたいと考え、f-traを導入した。

 最初は、ECサイト専用セールの告知やECサイト用クーポンの出し分けに活用した。AOKIのECサイトは完全な専用サイトではなく、トップページは店舗検索などができる企業サイトと一体で設計している。リアル店舗では実施していないがECサイトでは展開するセール情報やECサイトだけで利用できるクーポンをトップページに表示すると、ECサイトではなく店舗検索や商品検索のためにサイトを訪問してきたユーザーを混乱させかねない。

 そこでf-traを使って、これまでのサイト訪問履歴やトップページ上での動きを分析し、サイト訪問の目的がECにあるユーザーを特定し、このユーザーにだけセール情報やクーポン情報をポップアップで表示するようにした。その結果、クーポンの利用率がそれまでの50~60%から85%に増え、サイトの売り上げ増に貢献した。

 次に、2017年初めから、スーツのサイズをユーザーに分かりやすく伝えるためにf-traを活用した。ECサイト上に掲載されているスーツは、そのスーツがそろえているサイズの一覧を表示している。しかし、A6やAB7といった表記だけでは、本当に自分に合致しているか分からないことが多い。そこで、右下に示された「サイズ表」というポップアップをユーザーがクリックすると、身長とウエストなどの数値から、どのサイズが最も適しているかが分かる一覧表が表示されるようにした。その結果、ポップアップがなかったときと比べると、当該ページを閲覧した人のうち、商品を購入する人の割合が、約30%向上したという。

 こうした成果を踏まえて取り組んだのが、今回のオススメのスーツの情報をポップアップ表示することだった

 AOKIでは今回の取り組みの成果を踏まえ、今後もECサイト発の情報を強化していくという。スーツを購入するときにだけ訪れるサイトから、発信する情報を増やして購入時に限らず訪問してもらえるサイトに変えていくことを目指す。

 具体的には、ユーザーが購入意向を示すスーツに合うシャツやネクタイをコーディネートして紹介したり、その逆に、ユーザーの手持ちのシャツやネクタイに合うスーツをレコメンドしたりすることを狙う。さらに、「ECサイトで得られたデジタルマーケティングの知見をリアル店舗にもフィードバックしていくことを進めたい」と澤田氏は語る。

この記事をいいね!する