同行のチャットボット活用はこれには留まらない。2017年3月には、自行のWebサイトでチャットボット「EVA」(Electronic Virtual Assistant)をローンチ。これはインド発のAIスタートアップ、Senseforthと組んだチャットボットサービスである。同行のサイトを開くと、画面右下に小さなアバターが出現し「EVAに質問する」というオプションが表示される。そのアバターをクリックすると、EVAとのチャット画面が表示され、ユーザーはチャットのやり取りを通して、さまざまな点についてEVAからのアシストを受けられるようになっている。
EVAがアシストできる内容は、支店の住所やコードの問合せから、クレジットカードやデビットカードのブロック、ネットバンキングのパスワードの再設定方法など、多岐にわたる。EVAのおかげでユーザは、検索したりブラウズしたりする手間なく、手軽に商品やサービスに関する情報を得ることができる。
同行によればローンチから数日で、EVAは、世界17カ国の数千もの顧客による10万件もの問合せに答えたという。今後、顧客とのやり取りを積み重ねていくことにより、EVAの処理能力はより高まり、EVAを活用したAI対話形式のサービスの範囲はさまざまな銀行取引へと、広がりを見せていくことが期待されている。
ヒューマンタッチな顧客体験が持ち味のixibaba
複数の旅行予約サイトを横断検索できる旅行予約マーケットプレイス「ixigo」は2007年にローンチされ、旅行予約のワンストップショップとして、多くのユーザーに利用されてきた。そんなixigoが2016年に導入し、顧客体験の向上に一役買っているのが、同社のキャラの立ったチャットボット「ixibaba」である。
ixibabaとは、ixigoとbaba(インドをはじめとする南アジア地域で、物知りの年配の男性に対する尊敬の意を表す呼称)を組み合わせた名前。ixibabaのアバターは、いかにもサイババ風の風貌に、メガネをかけた少しギークな印象を醸し出している。面白おかしく書かれたプロフィールによると、ixibabaはヒマラヤ山脈にいる「旅行の師」であり、「退屈しのぎに長けた人(the breaker of boredom)」などとある。
ixibabaは、フライト情報、ホテル、タクシー、電車、おすすめの旅行先、天気、観光地の入場料金などの質問に答えられる。実際に、比較的シンプルな内容であれば、テンポよく返してくれる。少し込み入った問合せとなると、「しばらく寝不足なんだ!処理能力がかなり落ちてしまっている。メールをくれればちゃんと答えられるよ。」と、メール問合せ先を教えてくれるといった、いかにもインドらしいものになる。洗練された顧客体験を提供するには、まだ学習が必要なようだ。
ただ、こういった細かいキャラクター設定やフレンドリーなやり取りにより、チャットボットとのコミュニケーションであるにも関わらず、人間とのコミュニケーションに近いような、温かみのある感覚をユーザー側に与えている。時間をかけて会話を蓄積することで、よりナチュラルな会話ができるようになるAIならではのキャラクター設定かもしれない。
ixigoは、次のステージとして、2018年に「Tara」という音声アシスタントのアプリ上でのローンチを目指している。ixigoによれば、TaraのようなAIベースのプラットフォームは、より多くのユーザーとコミュニケーションをしていくことで、よりよくユーザーを理解することができ、よりパーソナライズしたコミュニケーションが可能になる。ixigoは電話応対の記録や、苦情メール、カスタマーサポートのチャット履歴などのデータを活用し、ユーザの志向を理解した上でユーザが興味を持ちそうな旅行を提案することを目指している。
インターネットへのアクセス手段の主流デバイスはモバイル機器であるが、多数のモバイル上のアプリを使いこなすのを、ユーザーは面倒に感じるはずであり、音声で一発で答えを得られるシステムは利用価値が高いとixigoは見ている。今後伝統的なUIはますます減っていき、音声プラットフォームとARとの組み合わせによって、ますますUIは会話ベースに変化していくというのが彼らの想定だ。これが次世代チャットボットTaraを開発している動機である。
ユーザーに浸透し、進化を続けているインドのチャットボット。今後、ユーザーとの関係構築においてどのような進化を続けるのか、目が離せない。