新しいテクノロジーを導入したり利用したりすることに比較的ちゅうちょが無いインドでは、ここ数年で人工知能(AI)を活用したチャットボットが急速に浸透している。チャットボットとは、生身の人間と自動的にチャットを通してやりとりできるロボット(AI)のこと。企業にとっては、24時間365日対応可能なカスタマーサービスのツールとして活用できる。個々人に合わせた、パーソナライズしたやりとりも可能なため、既存・潜在カスタマーのエンゲージメントを高めるツールとしても利用価値が大きい。
世界ではFacebook、マイクロソフト、LINEなどが2016年ごろからチャットボットへの取り組みを本格化させており、日本でも運送会社などでの活用が進んでいる。インドではチャットボットが、各種チケット予約やEコマースを始め、旅行、銀行・保険、医療サービスの分野などでも活用されている。
課題は、AIでのやり取りをより自然なものにするには、消費者の志向などの膨大なデータが必要となることである。その点、インドの消費者は、より使い心地の良いサービスを受けることができるなら、個人データを収集されようと、それほど違和感を感じない傾向がある。これもチャットボットが急速に浸透している背景にあるだろう。今回は、こういったインドのチャットボットをいくつか紹介したい。
チャットボット導入で先行するHDFC銀行
チャットボットを導入して目覚ましい成果を挙げているのが、HDFC銀行である。同行は2016年12月にチャットボットを開発するインドのスタートアップとして注目を集めるNiki.aiと提携し、Facebookメッセンジャー上のチャットボット「OnChat」を導入した。ユーザーはOnChatとメッセンジャー上でチャットすることにより、ポストペイド携帯電話料金や各種公共料金の支払い、プリペイド携帯電話の料金リチャージ、タクシー予約やバス予約、映画や各種イベントのチケット購入などができる。同行の口座を持っていなくても、ワンタイム登録でOnChatのサービスが利用可能だ。
OnChatは支払いのリマインダーといったパーソナライズされたメッセージを送ることもでき、ヒンドゥー語と英語がミックスされたインド特有の言語表現などにも対応できる。
HDFC銀行のプレスリリースによれば、ローンチから1年弱の間に、月次で160%の伸びを見せ、240万件ものメッセージを蓄積したという。今後の活用の余地が大きい、膨大なユーザーデータの収集に成功したわけだ。このデータはチャットボットの、より自然な言語処理能力の構築だけでなく、純粋に顧客データとしても活用の余地がある。OnChatのリピートユーザー率は34%にも上り、HDFC銀行はAIによる対話形式のバンキングサービスに自信を深めている。
さらに、OnChatユーザのうち約25%が、HDFC銀行の顧客では無かったことから、新規顧客獲得のチャネルとしても期待を強めている。同行によれば、OnChatを導入した背景として、ユーザーがメッセンジャーで友人とチャットを楽しみつつ、さまざまなトランザクションを行えるようにすることで、対話形式の銀行サービスにおける顧客体験を次のレベルへと押し進めたい、といった思惑がある。