今年1月に米国ラスベガスで開催されたCESの基調講演に、半導体メーカーのエヌビディア(NVIDIA)のジェンスン・フアンCEO(最高経営責任者)がトップバッターとして登場した。昨年はネットフリックスのリード・ヘイスティングスCEOが登壇しており、CESの基調講演の顔ぶれから、その年を象徴するであろう技術やサービスを占うことができる。

ジェンスン・フアンCEOが、CESの基調講演に登壇することを伝えるエヌビディアのサイト
ジェンスン・フアンCEOが、CESの基調講演に登壇することを伝えるエヌビディアのサイト

 エヌビディアはコンピュータのグラフィックス処理や演算処理の高速化を主な目的とするGPU(グラフィックス用チップ)を開発・販売している。CPUよりも単純化された演算コアが多く積まれているGPUの方が3Dグラフィックスの演算などには向いている。このため3D映像や細いタスクを同時進行させるディープラーニング分野でエヌビディアを採用する企業が急増している。同社は単なるチップメーカーではなく、人工知能(AI)革命の立役者となりつつある。

エヌビディアが注力する3つの分野

2016年に3倍以上になったエヌビディアの株価(出所:YAHOO! FINANCE)
2016年に3倍以上になったエヌビディアの株価(出所:YAHOO! FINANCE)

 実際にグーグル、フェイスブック、マイクロソフト、ソニー、バイドゥなどがいち早くエヌビディアを採用。2015年時点で3400社と、採用企業は直近2年間で34倍に膨れ上がっている。応用領域もヘルスケアやライフサイエンス、ファイナンス、メディア&エンターテインメント、エネルギー、自動車、製造、高等教育、ゲーム、防衛などへと広がっている。ありとあらゆる産業と企業がエヌビディアのチップを採用し、AI方面に活用しようとしていることが分かる。エヌビディアの株価は2016年1年だけで3倍以上伸びた。

 多方面で活用されているエヌビディアのチップであるが、基調講演でフアンCEOが強調したのは3分野。「VR(仮想現実)の世界を実現させるゲーム」、「テレビを中心としたスマートホーム」、そして「自動運転を見据えたスマートカー」の領域だ。

 元々、グラフィックの演算が得意なエヌビディアのチップやグラフィックボードは、マイクロソフトの「Xbox」やソニー・インタラクティブエンタテインメントの「PlayStation」など多くのハードに採用されていた。グラフィックの技術環境が4K、VR、HDR(高画質技術)と進化するにつれて活用範囲が広がったため、今やゲームの概念はニッチな「ゲーマーのためのもの」ではなく、生活の(一部の)延長として、デバイスを持つ人全員が対象となり得る成長分野なのだ。

 例えばゲームにおける「Eスポーツ」は、既に世界最大級のスポーツイベントへと成長している。運動能力、訓練、戦略、チームワークを駆使するEスポーツ競技は、ライブを含む観戦者が世界中のSNS上に存在し、その競技人口は現状の全てのスポーツのそれを上回る可能性がある。

 この延長でエヌビディアは自社ゲームのグラフィックカードであった「GeForce」を進化させて、家庭でのエンターテインメント全般を提供するSTB(セット・トップ・ボックス)「SHIELD」として商品化した。199.99ドルのSHIELDをAndroid TVと接続すれば、Netflixや「Amazon Video」を4KやHDRで見られるだけでなく、ゲームを含めた娯楽をスマートホームとして楽しめる。これはグーグルとの協業だ。

AIマイクロフォンを搭載する「SPOT」
AIマイクロフォンを搭載する「SPOT」

 このSHIELDが接続されたAndroid TVを起点に、「SPOT」という、AIマイクロフォンを搭載した小型デバイスを家の中に複数置くことで、部屋のどこからでも音声でグーグル・ボイス・アシスタントにコマンドが送れる。エヌビディアは自社の強力なエンターテインメントのバックグラウンドとチップの能力で、「グーグル・ホーム」の実現を後押ししているのだ。

 さらにエヌビディアはグラフィック処理能力の高さを生かした画像認識技術によるクルマの自動運転やスマートカー分野で提携を広げている。CESの基調講演では独アウディの北米CEOを登壇させてプロジェクトを紹介したのを始め、メルセデス、テスラモーターズ、ボルボ、ホンダ(本田技研工業)、アルファロメオ、BMWなど22社が既にエヌビディア自動車部門のパートナーになっている。

 ここで話をCESに戻そう。毎年規模が拡大するCESではAIやIoT(モノのインターネット)が話題の中心となり、チップメーカーのエヌビディアでさえも「目に見える形」で新サービスを製品化して展示・発表している。注目製品の表面的な華々しさにつられるのではなく、その背後のスキームやマーケティング上の見えていない仕組みを考えてみると面白い。今やCESは、マーケティングを展開する全ての企業の集合展と言い切ってもよく、企業向けのエコシステムをどのように構築しているかという視点で製品、サービスを見ることが大切だろう。

製品やサービスを構成するエコシステムを先回りするアマゾン

 実は、CES会場のあちこちで目にするのに、CESに出展参加していない企業がある。アマゾンだ。今回のCESでは、アマゾンの音声認識アシスタントである「アレクサ」を導入することを発表した企業が数え切れないほどあった。既に音楽再生からUberの配車呼び出し、ピザの注文に至るまでアレクサが対応できる「スキル(=アプリ)」がパートナー企業によって5000以上も開発されている。

 スマートホーム、スマートカー、VR・ゲーム、AI、IoTの分野についてCESで発表されたものには、アマゾンの「AWS」(アマゾン・ウェブ・サービス)に依存するモデルがあり、アマゾン自身が実用化しているサービスも多い。新デバイスやサービスが「新たにこれが可能になります」と機能を提供しても、実際に契約して使ってくれるターゲットに認知してもらい、購買・採用してもらうまでの道のりは長い。アマゾンは先回りで「プライム会員」を着々と拡大させており、同社とつながった(囲った)会員に、新たなサービスを提供している。AIとIoTの世界では、顧客とつながってサービスを提供する前に、どうやって顧客と最初に契約をするかという大きなマーケティング課題がある。

■修正履歴
写真1のキャプションに誤りがありましたので修正しました。[2017/1/31 13:10]