サラリーマンの街、東京・新橋駅前のニュー新橋ビルにある自販機。そこに高級感あふれる金色のボトル缶「希少珈琲 with ESPRESSO」が100円、「塩サイダー 南高梅」が80円で投げ売られていた(2016年1月12日時点)。キリンビバレッジが2014年11月に立ち上げた「キリン 別格」シリーズの商品だ。

 「希少珈琲」などシリーズ第1弾商品の自販機価格は220円。素材を厳選して製法にこだわったハイグレードなラインアップだった。俳優の松本幸四郎・松たか子が和装で親子共演したCMも話題を呼び、発売に合わせて新スローガン「世界一おいしいのみものをつくる会社になる」を発表するほど全力投球していた。

 翌2015年春に希少珈琲のBLACKとESPRESSO、同6~7月に塩サイダー、宇治抹茶、レモネードと値を下げてシリーズ商品を投入したものの、翌月8~9月には全シリーズの製造を終了した。ブランドサイトも削除済み。全社を挙げて挑んだ新ブランドとしては、寂しい幕切れである。

 なぜ別格シリーズは失敗に終わったのか。実際に飲んだ人の声を傾聴するのが手っ取り早い。「キリン 別格」を含む投稿を検索すると、さまざまな感想が書き込まれているが、目についた内容は大きく2つ。

ネーミングと味に不満の声

 一つは別格というブランド名への違和感だ。「日本を、別格に」というCMのキャッチフレーズに対し、発売当初から「上から目線なネーミング」「格が違うかどうかは消費者が決めること」「日本礼賛の風潮がこんなところにも」といった声が上がっていた。もう一つは味わいについて。これは個々人の好みゆえ絶賛から酷評まで大きく割れていた。問題は、味に一定の評価をしている人でも、「別格というほどではない」などの表現でリピート購入に至っていないと思われるケースが散見されたことだ。

 これが例えばよくある「プレミアム」などの表現だったら、またシリーズ第2弾の希少珈琲BLACKのように税込み200円を切る価格水準でスタートしていたら、飲んだ感想とその後の購買行動は違った可能性がある。別格を名乗って期待感のハードルを自ら上げ過ぎ、名前負けを招いてしまった感が強い。

 同社は別格シリーズ発売時、「当社調べでは、約5割のお客様が『味がおいしければ多少価格が高くても気にならない』と考えていることがわかりました」とリリースに記載していた。事実、ビールでは高級志向のプレミアムビールが人気だ。ノンアルコールでもJR東日本ウォーターサービス(東京都渋谷区)が2014年4月から駅構内の自販機で販売している「おいしいカフェオレ」(180円)はネット上の評判も上々だ。

 別格の撤退についてキリン広報は、「流通や一部のお客様からは一定の評価をいただいたが、価格設定などに課題を残した。今後も多様化するニーズに対し、今回得られた知見を活用していきたい」と回答を寄せた。デジタルマーケティング部門を大増員しているキリングループだけに、敗因分析からの再チャレンジに期待したい。

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