■【特集】進化するデジタルサイネージ
前編 サイネージが着こなし、評判、在庫情報を教えてくれるGU
中編 AI店舗案内を導入したイオンモール、視線認識で広告を切り替えるOOHも

AIで自動応答するイオンモール

 イオングループの中で、多くのテナントを誘致してショッピングセンター(SC)を開発・運営する、不動産ディベロッパーの役割を負っているのがイオンモール(千葉市)である。

 そのイオンモールも、AI(人工知能)による自動案内サービスを組み込んだデジタルサイネージを、2017年9月にイオンモール松本、同年11月にイオンモール甲府昭和に、それぞれ2台導入した。イオンモール松本は新店開業に伴い、またイオンモール甲府昭和は店舗の大規模リニューアルをきっかけに、それぞれ導入した格好だ。

イオンモールが導入を開始したAIを活用したデジタルサイネージによる音声自動案内サービス
イオンモールが導入を開始したAIを活用したデジタルサイネージによる音声自動案内サービス

 サイネージの画面に表示された「音声入力」というマイクの絵柄のボタンにタッチしながら口頭で質問すると、サイネージが質問の音声をAIで自動認識し、画面上に映し出されている女性キャラクターが音声で回答する。

 例えば、「一番近いトイレはどこにある?」「フードコートは何階のどこにある?」といった質問をすると、館内の見取り図などをサイネージ上に表示しながら、音声と合わせて分かりやすく案内するのだ。訪日観光客の来店が増えていることを踏まえ、日本語だけでなく、英語と中国語にも対応した。

 イオンモール開発本部建設企画統括部建設部設備グループの高橋健一氏は、「既存のインフォメーションでお待たせする時間を減らし、かつ女性のキャラクターを採用することで幅広い世代の方々が気軽に利用できるよう、お客さまの利便性向上を第一に考えた」とサイネージを使った自動案内サービスを導入した狙いを語る。

 AIを導入したのは、「将来、AIでできる案内業務と、ヒトではないとできない案内業務がある。ヒトの負担を減らし、新たな接客サービスに振り向けたい」(高橋氏)という狙いもある。

 AIエンジンには、Web制作会社ティファナ・ドットコム(東京都目黒区)が開発した「KIZUNA(絆)」を採用した。来店客の質問をデータとして蓄積し、定期的に分析を重ねて、回答の基となる設定シナリオや回答文を見直している。サイネージ導入時に回答できる質問は1000通りほどだったが、約3カ月後の現在は、「3000通りほどまで増えている」(高橋氏)という。

 実際、デジタルサイネージによる自動案内サービスの評判は上々だという。今後は、立地特性を見ながら、新店を出店するごとに、自動案内サービスを組み込んだデジタルサイネージを設置していくことを計画している。

 また、将来は、店内に複数設置された通常のデジタルサイネージと、今回導入したサイネージを連係させ、AIを活用しながら運用することも検討する。

 例えば、通常のデジタルサイネージで表示しているリアルタイムなショップ情報などを自動案内サービスのデジタルサイネージでも表示し、買い物客に購買を働きかけるといった使い方などが考えられるという。

 今回取り上げたGU、イオンモールとも、デジタルサイネージにインタラクティブな機能を組み込み、顧客の利便性の向上や収益増につなげている。こうしたデジタルサイネージを活用して自社情報を発信し、顧客と双方向のコミュニケーションを構築する試みは、小売りや外食などリアル店を多数抱える企業を中心に、今後も増えていくだろう。

2.広告配信型:視線や温度で顧客をターゲティング

 デジタルサイネージを広告媒体と位置付け、関係者や第三者の広告を配信する広告配信型。このタイプの進化で目立つのは、単なるポスターの代替という位置付けを脱し、何らかの手段で顧客をターゲティングして、広告主が狙っている顧客にふさわしい広告クリエイティブを出し分けるというものだ。こちらは既存のデジタルサイネージを利用して、サプライヤーがサービスを提供するという形を取る。

 その試みの1つが、電通と日本マイクロソフト(東京都港区)が、東京の都営地下鉄六本木駅のホームに設置されているデジタルサイネージ「六本木ホームビジョン」を利用して、2017年12月11~24日まで提供した「人工知能型OOH広告」の実証実験である。

電通と日本マイクロソフトが取り組んだ視線認識による広告表示
電通と日本マイクロソフトが取り組んだ視線認識による広告表示

 資生堂ジャパンが協力し、メイクアップブランド「MAQuillAGE」の広告を展開。デジタルサイネージの前に立った通行客の視線に応じて、インタラクティブに広告を出し分けた。

 具体的にはこんな具合だ。デジタルサイネージ上にサイネージ前の通行量や通行客の顔の向きと、サイネージのどこを見たかという視線をそれぞれ検知する2系統のカメラを設置。その上で、サイネージの前で通行客が足を止めて顔をサイネージに向けると、その動きを画像認識が得意なマイクロソフトのクラウドベースAI「Cognitive Services」が検知し、表示している広告を3色のルージュの画面に切り替える。

 そしてどのルージュの先を通行客が見ているかを視線で検知し、選んだ色に合わせた広告にさらに差し替える。広告を見た通行客は、サイネージの画面上に示されたQRコードを通じて、資生堂のECサイト「ワタシプラス」で利用できるプレゼントクーポンを取得できる。

 通行客の顔や視線の動きに合わせて広告をインタラクティブに出し分けることで、より高い広告効果を狙った。

 また今回の実験では、当初計画されていた広告の出し分けには活用しなかったが、マイクロソフトのクラウドベースAIが、カメラで撮影した映像を5分ごとに解析し、サイネージの前を通った通行客の量やサイネージを見た通行客の性別、年齢などを読み取り、データとして蓄積・分析している。

 クラウドとの接続には、サイネージに差し込んだ専用SIMカードを使って、既存の携帯電話回線の上がり回線を利用した。「SIMカードを接続できるデジタルサイネージであれば、簡単にネットに接続し、クラウドベースのAIを活用できることが実証できた」(日本マイクロソフト パートナー事業本部パートナー技術統括本部クラウドプラクティス技術本部の平岡一成クラウドソリューションアーキテクト)格好だ。

 これまでのデジタルサイネージは、若者が比較的多い、通勤客が比較的多いといった設置場所の特性に応じて広告主が広告を配信しており、実際にサイネージの前をどんな人々が通行し、どれだけサイネージを見ているかというオーディエンスデータが存在しないことが多かった。「AIとカメラを活用してこうしたオーディエンスデータを蓄積していけば、デジタルサイネージごとの具体的な媒体価値を示せるようになる」と電通アウト・オブ・ホーム・メディア局スマートビジネス推進室テック&データインテリジェンス部の藤井春樹シニア・プロジェクト・マネージャーは語る。

 例えば、六本木と新宿では、デジタルサイネージを見ているオーディエンスがこのように異なると数字で示せれば、それぞれのサイネージにふさわしい広告が出稿されるようになるはず。「広告の効果も高まり、デジタルサイネージの媒体価値も適正に評価される」(藤井氏)というわけだ。

 実際、今回の実験で得たデータから、都営地下鉄六本木駅では、朝よりも夜の通行量が膨大なこと、上り線と下り線で通行量のパターンが異なることなどが分かったという。

 また今回は見送った、カメラによる撮影で検知したオーディエンスに合わせてデジタルサイネージ上の広告を出し分ける試みも、次のステップとして検討していく考え。電通とマイクロソフトは2018年6月末までに、「人工知能型OOH広告」を国内の広告主5社に提供することを目標に掲げている。

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