WELQに出稿していなかった企業も、運用型広告で自社のバナーがどのメディアに表示されているか、把握できていないところが大半だ。例えばWebメディアの中には、出典元も記さず、DeNAのバッシング記事を他社メディアからの“パクリ”で書き散らすようなバイラルメディアも存在する。しかしそんなメディアにも大企業のブランドのバナー広告が出稿されているのが実情だ。

 はてなはフリークアウトと共同で不適切なサイトへの広告出稿をコントロールするアドベリフィケーション機能「BrandSafe はてな」を開発し、DSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)各社に提供している。はてなブックマークのタグやコメントに蓄積された膨大なワードを基に機械学習でリスクのあるサイトやページを判別する。日本特有のネットスラングにも強いのが特徴だ。不適切サイトを判別して広告買い付けを抑制することで、広告主は自社ブランド毀損の可能性を低減できる。

 アドテク支援のMomentum(東京都港区)もアドベリ機能「BlackSwan」を提供。文化人やタレント、アスリートのマネジメントを手掛けるPR代理店のサニーサイドアップが同社と業務提携した。タレントやそのタレントを広告に起用する企業にとってネガティブなコンテンツへの掲載除外や、ブランド毀損につながる広告配信を防ぐフィルタリングツールを開発している。

 WELQ問題を受けて、2017年は広告主の意識がバナー広告掲出先の見直しにも及ぶことになるだろう。

antennaは1年前にメディア選別

 広告主と立場は異なるが、自社ブランドをより向上させるために苦渋の決断を下したのが、キュレーションアプリ「antenna」を運営するグライダーアソシエイツ(東京都港区)の杉本哲哉社長だ。

キュレーションメディア「antenna」が2015年10月に提携メディアを400から250に絞り込んだ際、提携を解除した主なメディア
キュレーションメディア「antenna」が2015年10月に提携メディアを400から250に絞り込んだ際、提携を解除した主なメディア

 antennaは2015年10月、約400に達していた提携メディア数を、約250にまで絞り込んだ。このとき提携を解除した主なメディアが、「ハフィントンポスト」「TABILABO」、そして「MERY」「iemo」「FindTravel」というDeNAのメディア群だった。WELQの騒動より1年も前に見直しに踏み切っていたのだから、慧眼と言ってよい。

 「写真・記事がオリジナルで質が高いこと、集客に寄与する記事であること、有料コンテンツへの誘導が目的化していないこと、などを基準に選定させていただいた」と杉本社長は振り返る。antenna側から当初、持ちかけて提携したケースや、解除するメディアの運営元企業の別メディアとは提携を続けたいケースなど、難しい交渉もあった。それでもブレずに、基準に忠実に取捨を進めた。広告主にも学ぶところは多い。

メディア健全化を見守る度量も

 WELQ騒動を経て本誌が懸念するのは、「やはりネットメディアは信用ならない」という具合に、一律にひっくるめて判断されてしまうことだ。WELQの手口をいち早く検証して問題視したのは、BuzzFeedや「TechCrunch」などネットメディアであることを忘れてはならない。

 現状ではグレーゾーンが残るメディアについても、改善を重ねて良質な媒体に変化していく過程を見守る度量が必要だ。本国のBuzzFeedでも、かつては記事の盗用をしたスタッフを解雇したり、数千本の過去記事を削除したりと、“やんちゃ”な時代があった。YouTubeも違法アップロードが絶えず、音楽・映画関係者は目の敵にしていた。そんなBuzzFeedが日本ではヤフーとの共同出資で、盗用メディアを糾弾する側に回る成長を見せ、YouTubeも映画の予告や新譜の発売プロモーションに不可欠な存在になっている。

2017年は隔月で紙媒体の発行を予定していた
2017年は隔月で紙媒体の発行を予定していた
「MERY」には愛読者がいた
「MERY」には愛読者がいた
 

 MERYは若い女性がターゲットのため、WELQよりずっと利用者数は少ないが、検索結果から誘導されて見ているだけのWELQと異なり、MERYを読みたくてアクセスしたり、アプリを起動したりしている愛読者の率が高い(上図)。

 MERY内で集英社の「MAQUIA ONLINE」「SPUR.JP」をはじめとする女性誌メディア記事が読めるパートナープログラムも動き出し、出版社の人材がMERYに入り始めていた。紙媒体のMERYも不定期に刊行し、パルコなどとはO2Oのプロモーションでも成果を上げていた。もう少し先行きを見届けてもよかったと思うところはある。

 2017年は、こうしたメディアに対する広告主の目利き力が問われる一年になるだろう。

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