電通は1月17日、ネット広告の運用業務において昨年、発生した不正の実態と発生の原因究明などの調査結果、および再発防止策を公表した。不正被害にあった企業は96社で作業件数は997件、合計金額は1億1482万円となった。このうち実際に広告が掲載されていないにもかかわらず、広告掲載費を徴収した架空請求に当たるのは10社で、作業件数は40件、金額は338万円だった。被害にあった企業には「返金、今後の出稿との相殺など、各社の要望に応じて対応した」(電通)。同社は4月までに広告掲載レポートの自動作成システムを開発するなどして、再発防止に努める。

電通は不正の発覚を受けて、2016年8月15日に、中本祥一副社長を委員長とした、外部の弁護士を含む内部調査委員会を発足。公認不正検査士や公認会計士といった、社外の他の専門家の助言の下、調査に当たった。2012年11月1日~2016年7月31日までに電通、および国内グループ会社18社を通じてネット広告に関連するサービスを提供した2263社を対象に、約21万4000件の請求明細の分析や検証、各社の担当社員への聞き取り調査などを実施した。
2016年9月23日に公表した予備調査の結果では、不正被害にあった対象企業数を111社、合計金額は約2億3000万円としていたが、「本調査の結果、不正に当たらない案件もあったため、当初の想定よりも企業数、金額ともに減少した」(電通)。不正が行われたのは当初の発表どおり電通、ネクステッジ電通(現電通デジタル)、サイバー・コミュニケーションズ(cci)、DAサーチ&リンクの4社だった。本来、2016年12月中に発表する予定だったが、「調査データが想定を超える量だったうえ、電通社員の過労死事件に端を発した労務問題で、残業時間が圧縮された」(電通)ことなどの理由で発表が遅れたという。
不正が発生した4つの原因
不正は大きく4つの原因で発生したとしている。まず、(1)「業務プロセス上の問題」で、業務の標準化や職務の分離、チェック体制の構築と運用が不十分であったことがこれに当たる。担当者が1人で出稿からレポートの作成業務までを担当していたため、数字の改ざんなどが行われても、それを見抜く体制が整っていなかった。また、(2)「リスク管理上の問題」として、業務上のミスを組織として補う体制も整っていなかった。そのほか、(3)「人員体制上の問題」、(4)「国内デジタルグループ各社との連携不足」が理由として挙げられている。
電通は新たなシステムの構築や組織の設置で、発生の原因に対策を施し、再発防止を目指す。まず、4月から人手を介さずに出稿実績レポートを作成するシステムの提供を始める。同システムは、グーグルやヤフーといった大手広告プラットフォーマーやDSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)の専門業者から広告配信のデータを自動で取り込み、広告主のニーズに合わせてレポート化するもの。「従来は、媒体社の広告掲載データを見て、担当者が人力でレポートをまとめていたため、数値を改ざんする可能性が残されていた。媒体社のデータから自動でレポートを作成するシステムを構築し、4月から運用することで、人為的なミスや意図的な改ざんを防ぐ」(電通)。
また、人員体制の整備も進めている。昨年11月1日にオペレーション業務マネジメント室内に「デジタル確認課」を新設した。同課は課長以下、6人の組織となる。同課では媒体社から提供を受けた広告掲載データと、担当部門の電通の発注データを外部の調査会社に引き渡し、掲載確認を照合する役割を担う。また、昨年12月までに社員の配置換えを行い、ネット広告の運用経験者を中心に電通本社で約30人、グループ各社で合計90人を増員した。今後も社内異動や中途採用によって、さらなる増員を実施する。