DeNAの10メディアが“駆逐”されても、他サイトのコピペ記事を量産するようなキュレーションメディア、プラットフォームはまだ一掃されたわけではない。「真面目に手間ヒマかけてメディアを運営するほうがバカをみる」。そんな厭世的な空気がネットメディア界に漂っている。

 だが事態を変えるきっかけがないではない。質の低いメディアに広告主は広告を出稿したくない──。この当たり前の感覚を広告主の多くが持つことが、ネットメディア健全化のカギを握る。

 「WELQ」のケースを振り返ろう。Googleで「死にたい」と検索すると1位表示されるWELQの記事中に、キャリア診断テストへのアフィリエイトリンクが仕込まれていることをSEOの専門家が指摘し、各Webニュースメディアが報じたのが2016年10月下旬。バイラルニュースメディア「BuzzFeed」も、10月末時点で、WELQが他の複数のサイトから記事の言い回しを微妙に変えて組み合わせる、記事量産のカラクリについて突き止めていた。

 これをきっかけに、一部のネットユーザーやWebメディアが、「肩こりは幽霊が原因、右肩に憑くのは守護霊」「がんを始めさまざまな病気を予防する水素水」「【ダブル不倫】メリットもある?向いている人の5つの特徴」など、トンデモ記事の発掘に乗り出した。

 11月23日以降になると、WELQ記事の記述の誤りを具体的に指摘する医師からの投稿が相次いだ。監修不在の無責任な編集体制からメディアへの不信が生じた格好だ。WELQ側は11月25日に、専門家に記事監修の依頼を始めたこと、読者向けに通報フォームを設置したことを改善策として発表したが、その4日後、全記事を非公開化し、事実上閉鎖した。

 ここで注目すべきは、WELQに「PR」マーク付きタイアップ記事広告を掲載していた広告主の判断だ。

「WELQ」のサイト(2016年11月27日時点)
「WELQ」のサイト(2016年11月27日時点)

 上図のWELQの画面は11月27日時点のもの。画像3点のうち、左は花王「キュレル」、真ん中は花王「ヘルシア五穀めぐみ茶」の記事広告へ誘導するバナーである。の利用者数グラフの通り、WELQは2016年に急成長を遂げたサイトだったが、11月も27日までくると、ネット上は連日WELQ叩きで、WELQに掲載して得られる広告効果は“逆効果”になる可能性が高かった。

「WELQ」利用者数の推移
「WELQ」利用者数の推移

 花王では10月下旬からWELQが出稿先として問題がある可能性を察知し、WELQの内容や今後出稿を予定しているブランドの有無などの確認を進めていた。そして11月26日にWELQに対して記事広告の掲載停止を伝え、キュレルは27日、ヘルシアは28日に取り下げられたという。

 記者が観察していた限りでは、この花王の対応が大手広告主の中で先行していた。の一覧表は、花王の記事広告が消えた11月28日夜の時点で、WELQ上でアクセスできた主な大手広告主の記事広告だ。

「WELQ」タイアップ記事広告、主な出稿企業(閉鎖前夜時点)
「WELQ」タイアップ記事広告、主な出稿企業(閉鎖前夜時点)

閉鎖前に削除した企業も

 各社にヒアリングしたところ、対応は各社微妙に異なっていた。翌29日当日に、WELQの午後9時閉鎖がドタバタと決まったが、大正製薬とサントリーウエルネスの2社は、閉鎖よりも前に記事広告を取り下げた。多かったのは、「取り下げを検討している最中にサイトが閉鎖された」という回答だった。キユーピー、明治、大塚製薬がこれに当たる。

 フィリップスエレクトロニクスジャパンと日本マクドナルドは、「WELQの騒動を受けて議論したが、タイアップ記事広告そのものに問題はないため、様子を見守りつつ掲載していた」というスタンス。日本コカ・コーラは「記事広告はアーカイブとして残るものという認識。タイアップ記事内容に問題はなく、特に取り下げの議論はしていない」という回答だった。

 一方、森永乳業は「PR記事掲載の契約が9月末までで、サイトには残っていない認識だった。閉鎖後にアーカイブが残った状態だったことを代理店を通じて知った」。フィリップモリス ジャパンは「個別の広告について回答できない」とした。

ライオンは、WELQの記事と自社商品は無関係であることをお知らせとして明言
ライオンは、WELQの記事と自社商品は無関係であることをお知らせとして明言
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 なお、ライオンはWELQにタイアップ記事広告を出稿していなかったが、ラクトフェリンの効果を過度に表現する記事内に、同社ラクトフェリン商品を販売する他社サイトへのアフィリエイトリンクが張られていたことから、閉鎖翌日の11月30日、DeNAのラクトフェリン記事に一切関与していない旨、お知らせを掲示した。見ようによっては、WELQでPRマークを付けずにステルスマーケティングを仕掛けているようにも映るだけに、このように毅然と否定することは重要だ。

 WELQに出稿した企業は、立場的には被害者だ。しかし読者はそのようには見てくれない。先んじて広告を取り下げた花王に対し、取り下げの数日前、「この期に及んでまだ広告を出してるのか」という一般人のTwitter投稿があった。「タレントにスキャンダルがあればテレビCMは即降板させるのに、WELQとは最後まで添い遂げるのか?」。これが一般視聴者、消費者の感覚である。

 メディア不信が生じたサイトに広告を出稿することが逆効果になることが、マクロミルの協力を得て実施した本誌調査でも明らかになっている(下図)。

メディア不信は広告不信に直結する
メディア不信は広告不信に直結する

 信ぴょう性が低い記事を載せているメディアに記事広告やバナー広告を載せていると、その広告商品までイメージが下がったり、うさん臭いものに見えてしまうと答えた人が多数を占めた。メディア不信が生じてなお広告を掲載し続けることは、広告主にとって得策ではない。

レップの危機管理対応は期待薄

 Webメディアにタイアップ記事広告を出稿する際、広告主と媒体側の橋渡し役をメディアレップが担うのが一般的だ。ではメディアレップは広告主にどこまで媒体のリスク説明をしているのか。また今回のようにメディア不信が生じた場合、取り下げの進言を含む危機管理対応をするのか、したのか。レップ大手のサイバー・コミュニケーションズ(CCI)とデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)に取材を申し込んだが、両社とも取材を断ってきた。DeNAと広告主の間で板挟み状態であったことは想像に難くないが、メディアレップはその名の通りメディアの代理人であり、広告主の利益を第一に優先して動く組織ではない。

 窓口のレップに危機管理対応を期待できない以上、自社のブランドは自分で守るしかない。紙媒体の健康誌の場合、「〇〇で△△が治った!」といった特集を組む媒体には大手広告主の広告が少なく、エビデンスを重視していると思われる媒体には大手広告主の広告が入っているといった具合に、出稿メディアについて部数に加えて質も見極めようとする意識が高い。だがネットメディアに対してはその意識が希薄なのではないか。数が多いだけに、質も含めた検討が行き届かないのは理解できる。それでも「今後は広告掲載先のメディアを一つ一つ精査していく」(明治広報からの回答)、広告主の対応はこれに尽きるのではないだろうか。