顧客データベースはCRM(顧客関係管理)部門が管理しており、売り上げに関するデータは基幹システムを担当する情報システム部門が管理している。このようにデータが社内のさまざまな部署に散らばっているため、複数のデータを掛け合わせて分析するには各部門からデータを取り寄せる必要があり、手間と時間ばかりかかる。

こうした課題を抱えている企業は少なくないだろう。凸版印刷グループで、電子書籍のEC(電子商取引)サイト「BookLive!」を運営する、BookLive(東京都港区)もそんな悩みを抱えていた1社だ。そこで同社は2014年に、データを一元管理できる仕組みを導入。また、データ解析部門を新たに設置することで、データに基づいて、リアルタイムに販促キャンペーンを実施できる体制を整えた。その結果、2015年の売り上げは前年比で約30%向上する成果につながった。
データ分析は個人のスキルに依存
こうした体制が整う前は、データはあっても十分に活用できず、歯がゆい思いをしてきたという。「データが社内に分散していたため、何かを分析しようにも非常に時間がかかる。その上、解析は属人的な能力に依存しており、施策への落とし込みが担当者の繁閑などに左右されてしまう。そのため、スピーディーに意思決定をすることが難しかった」(執行役員経営企画本部本部長の三代川裕一氏)。
施策に対する効果検証も十分にできていなかった。「根拠もなく売れるという担当者判断から、思いつきで販促施策を打っていた。しかし、それが本当に売り上げに結びついているか、疑問だった」(三代川氏)。
例えば、売り上げのデータからどういったカテゴリーの商品が売れているかという集計や解析も担当者の個人スキルに頼っていたため、集計から次の施策を実行する意思決定まで、一週間近くかかっていた。「本来なら売り上げの状況を見ながら、売れていないカテゴリーがあればポイント倍増キャンペーンを実施するなど、状況に合わせて臨機応変に施策を打ちたかった。しかし、それが実現できていなかった」と三代川氏は振り返る。
そこで、社内に分散しているデータを1つのプラットフォームに集約・管理し、リアルタイムに施策を回すために導入したのが「Domo」だ。ドーモ(東京都渋谷区)が提供するBI(ビジネスインテリジェンス)ツールで、社内のデータを統合的に管理して分析することができる。
Domoには他の企業が提供するサービスと接続して、データを取得するために数百種類のAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)が用意されている。同社が「コネクター」と呼ぶこのAPIを使うことで、対象サービスのデータを簡単にDomoへつなぐことができる。取り込んだデータは、Domo上で、さまざまな形式でグラフにして分析することが可能だ。
BookLiveはこのDomoに、「Google アナリティクス」のWebサイトのアクセスデータや、売り上げ、顧客情報、広告代理店から送られる広告効果測定などのデータを取り込んでいる。これにより、Webのアクセスの状況と売り上げの推移といったデータを掛け合わせて、その関係性などを分析できるようにした。

また、Domoの導入に合わせてマーケティング本部の下にデータ解析の専門チームを設置した。Domoは分析した結果を、他部門と共有するための仕組みがあるため、専門チームがリアルタイムにデータを解析して、マーケティング部門やECサイトのプロモーション部門とデータを共有。各部門がデータを基に、すぐに施策を実行できるようにした。
具体的には、会員向けに提供するクーポンの最適化などに活用している。BookLiveは、1日1回クーポンが当たるくじ引きを常設している。このくじ引きで当たるクーポンの内容を、他の施策を鑑みながら随時変更している。例えば、文庫本と漫画のセール企画を実施している時に、漫画の売り上げが目標を下回っていれば、当たるクーポンの内容を漫画の割引に使える内容にするといった具合だ。「売り上げと各施策の目標達成の状況を見ながら、目標と乖離しているカテゴリーなどに販促費を集中するなど、リアルタイムに施策を回すことが可能になった」と三代川氏は言う。
広告やCRMにも活用が広がる
広告の運用部隊との連携も始まっている。従来、広告の運用部隊はCPA(顧客獲得単価)だけを重視していた。しかし、「安価に獲得できても、その後の継続利用が見込めないことも少なくない」(三代川氏)。だが、従来は獲得した広告媒体と顧客IDがひも付けられておらず、LTV(顧客生涯価値)を算出することも難しく、獲得した顧客が優良かどうか、分からなかった。
しかしデータの統合によって、現在は広告施策で獲得したIDと媒体、その後の売り上げといったデータをひも付けて分析できるようになった。これにより、例えば、漫画を販促するための広告施策を打つときに、漫画の購買頻度が高い顧客を獲得できた媒体に優先的に広告を配信するといった連携が可能になったという。広告の運用部隊の中でもリピート率をKPI(重要業績評価指標)に据え始めるなど、配信データという“共通言語”によって、部門間の連携がスムーズになった。
今後は、販促や広告への活用だけでなく、CRMへの活用も目指して、顧客の分析を進めている真っ最中だ。現在、BookLiveでは、顧客データベースからDomoにデータを取り込む際に、顧客ごとに訪問頻度、購入頻度、購入額、購入頻度の高いジャンルなどでラベルをつけている。このラベルを解析することによって、セールの時にしか買わない層や、特定のカテゴリーを定価で買う層など、顧客の傾向が分かってきたという。
従来は一律で割引クーポンを配信していた。今後はデータに基いて値引きの必要のない顧客は配信対象から外すなど、クーポンの無駄打ちを減らしていく。逆に、優良顧客だけを対象としたセールを実施することも可能で、顧客ごとに応じた施策の展開も視野に入れる。BookLiveは、こうした施策の展開でデータ活用を高度化し、売り上げのさらなる増加を狙う。