大学入試が終わり、職場でも新年度の人事異動が発令される3月は、年間で最も不動産・住宅情報サイトのアクセスが増える家探し・引っ越しのシーズンだ。これに先立ち、総掲載物件数No.1をうたうネクスト運営の不動産・住宅情報サイト「HOME'S」は2016年12月、人工知能(AI)によるディープラーニングを活用した物件画像の不整合検出システムを導入した。

 物件情報ページには、間取り図や外観、キッチン、バス・トイレ、収納、バルコニーなどの写真が掲載されている。だが数多くの物件を比較検討していると、まれに玄関という説明書きの写真スペースに外観写真が入っているといった登録間違いを見かけることもある。HOME'Sが導入したシステムでは、こうした不整合画像を登録エラーとして検出する。これまでは目視でチェックしていたが、総物件数が膨大なため、すべてを確認しきれていなかった。

ディープラーニングの活用でキッチンや玄関などの画像を学習させ、不整合があれば検出するシステムを導入した「HOME'S」
ディープラーニングの活用でキッチンや玄関などの画像を学習させ、不整合があれば検出するシステムを導入した「HOME'S」

 まずHOME'Sが大量に保有している物件画像データを、間取り、キッチン、居間など項目別に各種1万点ほどシステムに学習させる。続いて、学習した画像の特徴と不動産事業者が登録した画像を照合し、画像の中身と登録項目のラベルが合っているかどうかを判定する。ここで、例えば玄関という項目に建物の外観の写真が登録されている場合は、不整合画像として検出される。実際に不整合かどうかを目視で確認したうえで、登録元の不動産事業者に通知し、登録し直してもらうという仕組みだ。

 HOME'S事業本部サービス推進部賃貸ユニットの古谷圭一郎ユニット長は、「バスとトイレが一緒になったユニットバスや、家具が置いてあるモデルルームのリビングなど、認識がやや苦手なジャンルが若干残っているが、明らかな登録間違いは確実に検出できる。チェックにかける時間が格段に減り、精度も上がった」とシステム導入の成果を語る。

意図的に誤登録する不動産事業者の排除も

 同社がこのシステムの開発に力を入れていたのは、第一義としては、ユーザーが迷わずより快適に利用できるようにするためだが、もう一つ理由がある。一部の不動産事業者の中に、意図的に項目と異なる画像を入れて画像掲載点数を増やそうとする動きがあり、この動きを抑えるためだ。

 賃貸物件の場合、一つの物件を複数の不動産事業者が仲介することが多いため、事業者としてはユーザーが条件検索した際に、自社が上位で表示されるようにしたい。そんなHOME'S内のSEO対策として、掲載画像点数が多いほうが有利という情報が広がり、例えばキッチンの画像を保有していないのに玄関の画像を複数枚持っていれば、そのうちの1つをキッチンとして登録するような意図的な誤登録を行う事業者があったという。システムの導入でこれをほとんど根絶できた意義は、ユーザーの利便性を引き上げるうえで大きい。

 同社は今後もAIの活用を進め、例えば予算が合わない場合に希望の街と似た雰囲気の別の街の物件をユーザーにレコメンドするなど、成約率向上につながる住まいの提案をしていきたい考えだ。