「あるところに、正直村と嘘つき村があった」――。こんな字幕で始まるYouTube動画が2015年暮れから再生回数を伸ばしている。内容は、「正直村」の男性住民と「嘘つき村」の女性住民をめぐる禁断の恋の物語。外国人キャストを起用したハリウッド映画と見紛う映像表現と「ハリー・ポッター」風の題字に、思わず「何かの映画予告編か?」と引き込まれ、動画広告「TrueView」のスキップボタンをタップする手を押しとどめることに成功した。

Z会が配信する動画広告「正直村と嘘つき村」
Z会が配信する動画広告「正直村と嘘つき村」

 この映画予告編風の動画を配信しているのは、通信教育大手のZ会。2021年度施行予定の新入試制度「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」を見据えて、中高一貫コース向けに今春開講する新講座「総合」をアピールするものだ。

 新試験には、従来のマークシート方式のセンター試験と異なり、思考力や判断力、表現力が問われる記述式問題が導入される予定。新講座の広告宣伝を担う同社大学受験事業部プロモーション課の濱野なつ子氏は、「まだ5年先の大学入試制度改革についての認知度が低く、その内容も数学や英語のようにイメージしやすいものではないので、訴求方法には頭を悩ませた」と語る。

 現在の中学1年生以降が新試験の対象世代になるが、高校を受験する生徒は目前の受験対策がまず優先のため、新講座は中高一貫校に通う生徒の受講を想定している。従って対象が限られること、そして15秒では説明しがたい内容であることから、ネット動画広告でのアピールを選んだ。ちなみにテレビCM予算は、iPadを活用した高校受験コースの宣伝に振り向けた。

ストーリー仕立てで論理的思考力を体感

 動画広告を選んだことで数分の尺は得たものの、それでも大学入試改革の全貌、狙いやそれに対応した新講座の特長を正面から説明して見てもらうのは容易なことではない。そこで新試験で試される資質・能力の一つである「論理的思考力」にスポットを当て、ストーリーから学習内容を理解するWebムービーの製作に取りかかった。

 舞台は、真実のことしか言わない人々が住む正直村と、真実と反対のことしか言わない人々が住む嘘つき村。正直村の男性ルキエルと嘘つき村の女性ラヴィナが恋に落ち結婚式を挙げるに当たり、牧師役を引き受けたルキエルの兄ランスが、正直村へ向かう道中で論理的思考力が試される場面に直面する。ハリウッド映画風に仕上げた壮大なスケールの映像を通じて、筋道を立てて解決する力が求められる新講座の内容を体感できる動画広告になっている。

 再生時間は4分弱と長めだが、「久しぶりに宣伝動画を最後まで見てしまった」「(映画の予告かと思って)見事に騙されたけど感動した」というコメントやツイートが投稿されるほど反響は上々で、公開1カ月で再生回数は22万回を超えた。「応用編」にチャレンジできる特設サイトも開設した。回答を指定のハッシュタグ付きで投稿してもらい、牧師役のランスのTwitterアカウントから返事をすることで、さらなる盛り上げも図っている。

 濱野氏は、「Z会は従来から単に受験テクニックの習得ではなく、自分で考えることの大切さ、楽しさを重視してきた。これからの社会で必要なのは、正解の暗記ではなく、『自分で課題を発見して解決する力』や『正解のない問題に立ち向かう力』。それを動画を通して伝えたかった」と説明する。

 もっとも海外ロケの敢行などでコストもかけているため、再生回数は「もっと増えてほしい」(濱野氏)ところ。センター試験が行われる1月16~17日のタイミングで新試験についても話題になって、動画がさらに拡散することに期待をかけている。