旅行ガイドブックや地図を主力とする出版大手の昭文社が、ガイドブック購入者限定の無料スマートフォンアプリ「まっぷるリンク」を今年4月に全面リニューアルし、まず約8万件の観光スポットのデータを分析してユーザーに「おすすめスポット」を提示するサービスを始めた。知識豊富な編集者によるタグ付けが特長だ。
まっぷるリンクはもともと、「まっぷるマガジン」など昭文社が発行する旅行ガイドブックを購入したユーザーが、当該ガイドブックに掲載されている情報や地図を携帯電話でも閲覧するために開発されたサービス。2010年に従来型の携帯電話版、2012年にスマホアプリ版がリリースされた。
ユーザーは当該ガイドブック内にのり付けされたページをはがし、中に印刷されたQRコードをアプリで読み込むと、当該ガイドブックの情報がアプリ内にダウンロードされて閲覧できるようになる。昭文社のガイドブックを複数購入してQRコードをそれぞれ読み込めば、アプリ内に複数のガイドブックの情報や地図を収容できる仕組みだ。
レコメンドサービス「おでかけ情報登録」は、ユーザーがアプリの起動後、「いつ」「どこに」「誰と」「どの移動手段で」旅行するかを、「性別」「生年」「住んでいる都道府県」などとともに入力する。すると、そのユーザーの旅先でお薦めのスポット(観光地や飲食店、宿泊施設など)が複数、アプリ上に表記されるというサービスだ。推薦するスポットは、ユーザーが購入したガイドブックの対象地域が中心になる。
サービス開始時から当分の間は、昭文社がこれまで旅行ガイドブックを制作する際に蓄積してきた観光スポットのデータを基にレコメンドする。
例えば、ある観光地や宿泊施設について、「ファミリー向け」か「カップル向け」か、「年配の観光客向け」か「20代のよく動き回る若者向け」か、「電車やバスなど公共交通機関で回れる」か「クルマを利用しないと回りにくい」かなど、ガイドの編集者が長年の知見を基に複数のタグを付与してそれぞれ重み付けをしておく。ユーザーの入力に従って、その条件に最適と思われるスポットを選び出して薦める。
サービス開始後は、ユーザーの利用データも加味する。スポットの閲覧データを蓄積し、重み付けを定期的に見直して、レコメンドの精度を高めていく。当初は、データが整備できた約8万件の観光スポット情報からスタートするが、タグを付与して重み付けができた観光スポット情報を順次追加していく。
「まっぷるマガジンを購入するユーザーは高い確率で実際に旅行に出かける。アプリのユーザーの数が増えて旅好きな人の興味を大量に反映できるようになれば、他の追随を許さない精度の高いレコメンドが可能になる」とメディアコミュニケーション本部企画推進部の小川三千代氏は自信を見せる。
ダウンロード数が急伸
スポットのレコメンド機能を加えた結果、アプリのダウンロード数は急速に伸びている。2012年のスマホアプリ版リリース後、2年後の2014年3月に100万ダウンロード、翌2015年4月に200万ダウンロードを達成するペースだったが、全面リニューアルから1カ月後の2015年5月には、早くも250万ダウンロードに達したのだ。ガイドブック内での新機能の告知が効果を発揮しているようだ。
実は昭文社は数年前から、「出版社ではなく“情報発信会社”を標榜してきた」(小川氏)。他では得られない情報をユーザーに的確に発信することで、競合他社に対してブランド価値で優位に立ち、収益増につなげることを狙っている。
今回のアプリのリニューアルはその戦略の一環。導入したレコメンドサービスなどによってアプリの評価が高まれば、「収益源であるガイドブックなどの売り上げが上がるだけでなく、旅好きのユーザーの間で『まっぷる』というブランドの価値も引き上げられる」(小川氏)というわけだ。
今のところ好調な出足だが、思惑通りにコトが進むかどうかは、「外部の力を頼らず自前で取り組む」(小川氏)というデータ分析と重み付けの精度にかかってくることになりそうだ。