凸版印刷が運営する電子チラシサービス「Shufoo!(シュフー)」が、京都大学大学院と提携。情報学研究科の新熊亮一准教授と「関係性技術」という独自の行動予測技術を組み込んだ新しいレコメンドシステムの実証実験を、エリアを限定して6月に本格的に開始した。ユーザーごとの行動やニーズを予測し、個々のユーザーの消費意欲が高まる最適のタイミングで、電子チラシを配信することを狙っている。
新熊准教授が関係性技術に基づいて開発した仕組み「CAPChannel」の特長は、ユーザーが「いつ(時間)」「どこで(空間)」「誰と一緒にいるか」という3つを軸に、“接点(コンタクト)”という考え方に基づいて行動履歴データを蓄積し、分析することにある。
多くの行動予測技術は、蓄積されたユーザーの行動履歴データを分析し、共通の特徴を見いだしてユーザーを“分類”することを基本にしている。例えば購買履歴データを分析し、同じ商品を購入しているという特徴でユーザーをくくり、そのグループの中の「Bさんは購入しているがAさんはまだ購入していない商品」にAさんは興味を示すだろうと予測して、Aさんにレコメンドするわけだ。
しかし、例えば宿泊予約をする際、出張などで1人で泊まる場合と家族で泊まる場合では、同じユーザーでも選び方が異なるケースが多い。これまでの行動履歴データの分析ではこうした事情は反映されず、レコメンドが“空振り”に終わることも少なくなかった。
一方で、CAPChannelでは、「誰と一緒にいるか」も織り込むため、より精度の高いレコメンドが可能になる。どこにいたか、何を買ったか、誰といたかなど、ユーザーと関係する事柄をすべてユーザーとのコンタクトとして捉える。そして、複数あるコンタクトの数や頻度を独自の技術でモデリングし、ユーザーとの関係の強弱としてスコア化して示す。
あるユーザーにとって関係の強い商品や時間帯ほど高いスコアが与えられ、スコアが高い商品ほど、またスコアの高い時間帯に働きかけるほど、近い将来、購入されやすいと評価する。そのうえで、このスコアに基づき、ユーザーごとにレコメンド情報を配信するわけだ。
誰と一緒をどう把握するか
もっとも、ユーザーが誰と一緒にいるかを把握するのは簡単ではない。実証実験ではShufoo!のアプリ画面からプルダウンメニューで入力してもらう方式を採る。新熊准教授は「得られるメリットを理解してもらえれば、喜んで入力してくれるユーザーは相当数いるはず」と楽観的だが、どれだけの割合のユーザーが入力してくれるかはまだ定かではない。
それでもShufoo!を運営する凸版印刷は、この新技術へ期待をかける。その背景には電子チラシ独特の事情がある。ユーザーがダウンロードしたShufoo!アプリ宛に、東京近辺では平均50枚の電子チラシが毎朝、配信される。しかし、ユーザーはそのすべてには目を通さず、気になった数枚だけを見ることが多い。この段階で不要と判断された電子チラシは、大量の情報を掲載しながら、再び顧みられることはない。
しかし、「情報量が多いだけに、いったん不要とされた電子チラシが、あるタイミングでそのユーザーにとって価値を持つことはありうる」と凸版印刷メディア事業推進本部電子チラシ事業推進部の亀卦川篤部長は言う。ユーザーにとって最適のタイミングでレコメンド情報を送れる関係性技術を使ったシステムを実用化し、電子チラシをあるタイミングでユーザー宛てに再送することができれば、ユーザーの利便性を高めるだけでなく、電子チラシの価値も高めることができる。亀卦川氏は「できるだけ早くこの新しいレコメンドサービスを実現し、Shufoo!の利用頻度の向上を狙う」と強調する。
実は関係性技術の利用範囲はレコメンドだけにとどまらない。「例えば、多くのユーザーの声を集約して商品の改善に生かすといった使い方もできる」と新熊准教授。Shufoo!との提携で関係性技術の商用化に筋道を付け、京都大学として関係性技術を使った本格的な事業化も視野に入れている。
