特集「儲かる会社のKPI」の後編は、KPI活用で挫折を味わい、原点回帰で大幅増益を続けるカルビーなどを取り上げる。こうして本特集で紹介した各社の事例通じて得られた結論「うまくいくKPIの3つのポイント」とは…。

【スカパー・カスタマーリレーションズ】現場にKPIを拡大、個人の働き方改善

 KPIの活用を現場のレベルに広げたのが、有料多チャンネル放送「スカパー!」のカスタマーセンター業務を手掛けるスカパー・カスタマーリレーションズ(SPCC、東京都品川区)である。

 SPCCはコールセンターのシステムから取得できるデータを集約し、従業員一人ひとりの勤務状況をKPIとする。例えば、1回のコールに費やした時間の「AHT(アベレージハンドリングタイム)」、1回の平均通話時間の「ATT(アベレージトーキングタイム)」、1回の通話後の後処理にかかった時間の「ACW(アフターコールワーク)」、「エスカレーション率(転送が発生した割合)」といったものだ。

スカパー・カスタマーリレーションズが活用する個人別KPIの画面例
スカパー・カスタマーリレーションズが活用する個人別KPIの画面例

 KPIは現場を統括している全国で100人以上いるチームリーダー(スーパーバイザー)が活用する。システムの画面で自ら分析が可能で、自分のチームの生産性などが全体としてどういう状況にあるのか、一人ひとりの働き方に課題はないのかといったことが発見できる。

 オペレータはスキルレベルに応じたKPIの目標値が設定されており、チームリーダーが個人別KPIに基づいて一人ひとりに、「あなたはここをこう伸ばしてほしい」と具体的に伝えていくという。

 こうした現場レベルのKPIを経営も重視している。SPCCの拠点は那覇市、札幌市、横浜市など全国に6つあり、利用者から月間40万~50万件のコールを受けている。「オペレータ個人のKPIは一人ひとりのカルテのようなものだ。それを集めたものがチームのKPIとなり、それを束ねたものが拠点ごとのKPIとなる。最終的に顧客満足度の底上げにつなげたい」(SPCCの出水啓一朗社長)。

 システムの基盤はクリックテック・ジャパン(東京都港区)の分析ツール「QlikView」を採用した。まず本社の運用統括部部門で導入し、KPIのダッシュボードを開発して集計を自動化した。Excelのマクロ機能などを使っていたものを置き換えた。

 ただしチームリーダー全員に使ってもらうにはツールのライセンス料というハードルがあった。昨年9月にQlikViewと連携する無償のデスクトップ版「Qlik Sense」の提供が始まり、全面展開に踏み切った。

【カルビー】3000個のKPIで現場混乱単純指標に回帰

 KPI活用で挫折を味わったのがカルビーだ。実に3000個ものKPIを設定したが、「データの使い方が間違っていた」(カルビー営業本部営業企画部の本田健部長)。

 2014年度のカルビーの売り上げは前年比11%増の2221億円、営業利益率も2桁の10.8%と快調そのもの。しかし、2008年度の営業利益率は3.2%にとどまっていた。

 同社は2007年までバランススコアカードに基づく経営を追求していた。財務だけでなく「顧客」や「業務プロセス」などの視点を取り入れてバランスをとった経営戦略を立て、戦略の達成度をKPIにまで落とし込むマネジメント手法である。それに呼応し大量のKPIを設定していた。

 例えば、店頭での商品の鮮度を高めるという会社の方針に沿って、営業スタッフは担当する小売店で商品の製造日付を入力。店頭でどんな種類の販促を何回実施したかも個人別に指標化していた。

 小売店での販促の回数を増やすことが奨励され、ボーナスにも反映されたのだ。しかし販促回数を増やすことへのインセンティブが効き過ぎた。店頭での売り場を確保したり、新しい商品をしっかり紹介したりするといった営業本来の仕事が手薄になってしまったのだ。

 鮮度重視の経営方針は工場や配送業務にも適用されていった。工場は売れた分だけ製造する体制を取ったが、これにより製造工程の切り替え作業が増加。配送は多頻度になりコストが増大したのだ。

 本田部長は「現場があまりにもKPIとその数字の達成にとらわれすぎた」と振り返る。大量のKPIの数字を「経営コックピット」と呼ぶシステムで見ることができた。しかし数字の取りまとめに相当な手間がかかり、KPIが変動したときの原因の追究にも労力を費やしていた。

カルビーが追跡している業績指標
カルビーが追跡している業績指標

 結局カルビーは2008年にバランススコアカードをやめて、大量のKPIも廃止した。現在カルビーが追跡している業績指標は図に示した通りの、単純明快なものばかりだ。

 現場がしっかりした数字を出している限り、仕事のやり方は現場の自主性に任せる。そんな結果重視の経営に切り換えたのだ。ここ3年間のカルビーは、営業利益を毎年2割以上伸ばしている。

うまくいくKPI、3つのポイント

 カルビーのケースは、KPIが劇薬として作用する場合があることを教えてくれる。店頭での商品鮮度を大切にするのは間違っていないが、それに対するインセンティブの付け方が問題だった。販促回数のボーナスへの反映といったインセンティブは従業員の過剰な反応を引き起こすことがある。

 また、KPIの選び方を間違えると成果が出ないばかりか、悪影響が出る。ボストンコンサルティンググループ(BCG)の井上潤吾シニア・パートナーは「例えば、在庫の指標と納期の指標のように、トレードオフの関係にあるものもある。経営に関わる財務KPIから現場に関わる行動KPIまでの全体を一気通貫で設計して、運用すべき」と指摘する。 

うまくいくKPIの3つのポイント
うまくいくKPIの3つのポイント

 ケーススタディや専門家への取材の中からうまくいくKPI活用の3つのポイントが見えてきた。

 まず第1にKPIの数を必要最小限に抑えること。BCGの井上シニア・パートナーは、「現場に意識させるKPIは優先順位を付けて各人から見て10個以内、できれば3~6個が望ましい」とアドバイスする。

 ヤフーの天野部長は「KPIは日々の業務のモニタリングが目的。一般的なデータ解析のように今まで気づかなかった要因を見つけ出すものではない。変化を把握しやすい単純明快な要因に注目すべき」と言う。

 第2のポイントは、データの入手やとりまとめに手間をかけ、現場に余分な負担を強いないこと。カルビーでは数字を入手する手間が現場の負担になっていた。紹介した各企業は、社内に散在しているデータをツールで自動収集し、情報を共有する仕組みを作り上げている。こうしたツールやシステムの導入コストは格段に下がった。

 第3が、KPIの数字が変動した際の対策をあらかじめ用意しておくことだ。ダッシュボードのシステムを導入したものの、KPIの推移を見ているだけで迅速な対策やアクションに結びつかないようでは無駄な投資に他ならない。

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