KPIを使いこなして業績を上げる企業が増えている。社内外のビッグデータを集め分析するのが容易になったのが背景にあるが、KPIの見極めにも工夫を凝らす。特集前編は、運送会社のトラックの空車情報を把握し、最適な荷主の荷物をアサインすることで手数料を得る情報サービスを展開するトランコムの「早期マッチングKPI」を取り上げる。

トランコムの連結業績(日本基準)の推移
トランコムの連結業績(日本基準)の推移

 総合物流企業のトランコムの主力事業は、運送会社のトラックの空車情報を把握し、最適な荷主の荷物をアサインすることで手数料を得る情報サービスだ。トラックの調達条件が厳しくなるという逆風のなか、2015年3月期の売上高が前年比15%増の1146億円、営業利益は11%増の55億円で過去最高益となった。

 この快進撃を支えているのが、実はKPI(重要業績評価指標)に基づいた日々の業務の改善である。昨年8月に分析ツールをベースにしたシステムを導入し本格的に運用を始め、すぐに効果が出始めた。

 中長距離トラックの運転手のなり手不足という問題で空車のトラックがひっ迫しているが、データ分析とKPIの見いだしによってマッチング率を6ポイントも引き上げ、収益増に貢献した。

 トランコムの物流情報サービスグループの管理・システム担当の加藤由貢マネージャーは、「現場にKPIを浸透させるには、それを使う人の心がドキドキするような画面の見せ方をしなくてはダメだ。今の状態が数字で把握できるだけでなく、自分は何をすればいいのかということが分かる情報を取り出せることが大切だ」と説く。

データを“宝の山”にする羅針盤

 企業内や外部のデータをビッグデータとして集約して分析するのが容易になり、それをビジネスに生かせるかどうかが優勝劣敗の分け目となりつつある。

 KPIはまさにそうしたビッグデータ活用の羅針盤となるもので、クルマのダッシュボードのメーターにたとえられる。自社のビジネスに今何が起こっているのかをリアルタイムに数字で確認・把握。それを利用して意思決定をしたり事業の軌道修正を図ったりする。場合によっては適切な対策を即座に講じることもある。

 KPIの活用方法は企業ごとに異なるが、基本的な役割は「絶えず見ておく、鮮度の高い正確な数字をつかむ」ことだ。その掌握と分析に、ビッグデータが利用できるようになったのが今である。データ分析に活用するツールやシステムを導入しやすい環境が整ったのも後押ししている。

【トランコム】顧客の“癖”を把握し成約率改善

トランコムは分析ツールでデータを分析したうえで、取引先に早期の情報提供を働きかけ、KPIの改善につなげた(名古屋市の拠点)
トランコムは分析ツールでデータを分析したうえで、取引先に早期の情報提供を働きかけ、KPIの改善につなげた(名古屋市の拠点)

 全国に30拠点あるトランコムの物流情報サービス部門。そこでは1年間に220万件の貨物情報と250万件の空車情報を情報センターにいる営業スタッフがマッチングさせている。

 荷主からの1回限りの「スポットの注文」と、復路に積む貨物が欲しい運送会社の都合をうまく結びつけることができれば取引が成立。トランコムにはサービスの手数料が入るというビジネスだ。実際にマッチングが成立するのは、全体の40~50%だという。

 経営的な側面から見た基本的なKPIは「人時(総労働時間)」「単価」「情報件数」「生産性」と一般的なものである。この基本KPIの改善に大きく寄与するものとして営業現場が特に重視するKPIは、配送当日よりも早い前日などの段階で発注の情報を入手し、成約できたかを表した「早期マッチング」である。

 この早期マッチングをKPIとして見いだしたのが、ビッグデータ分析だった。以前からある基幹システムに蓄積してきたデータを、ツールで分析してみると、業務の改善につながる様々な要因が見えてきた。早期マッチングKPIは、トラックの空車情報の入るタイミングと荷主の貨物情報が入るタイミングに半日などちょっとしたズレがあることから見いだしたものだ。物流情報サービスグループ担当執行役員の上林亮氏は「データを分析してみて、そのズレのせいで成約を逃していることに初めて気づいた」と振り返る。

トランコムは現場の指標に着目して基本KPIを改善
トランコムは現場の指標に着目して基本KPIを改善

 こうして早期マッチングのKPIを改善するための取り組みが始まった。

 まず荷主企業の注文を配送前日午前などの早い段階で取りたいが、一筋縄ではいかない。トランコムは約1万3000社もの荷主の企業と取引しているからだ。どの程度事前のタイミングで注文してくるのかは、荷主企業ごとに異なる。つまり契約をとるには、そのタイミングや時間帯を把握したうえで連絡しなければならない。従来こうした荷主ごとの“癖”は、営業スタッフの1人ひとりの頭の中にあるだけで、営業現場で共有できていなかった。

 これに対して分析システムを導入することで、荷主企業ごとのデータを基に傾向が確認できるようになった。正社員だけでなくパートタイムの従業員でも適切なタイミングで連絡が可能だ。

 もちろん現場ではKPIを改善するため、地道な努力をしている。例えば、荷主企業の担当者を個別に訪問し、注文を早い段階で出してもらえるように働きかけた。荷主企業はトラックドライバーの人手不足である現状も知っていたので、協力が得やすくなったという。

 昨年、成約台数は前年同期比7.1%増で推移していたが、分析システムの導入後は前年同期比16.6%増と10ポイントも改善したのだ。分析システムは2014年度の中間地点から導入したものの同年度のマッチング率は47%と前年比で6ポイント改善した。

マッチングタイミングの改善
マッチングタイミングの改善

 こうして早期マッチングのKPIを改善した成果は、冒頭で述べたように経営業績の向上に貢献している。

 分析システムには、前日の夜10時までの実績データを確認する「集計」、営業スタッフが適切な荷主や運送会社を見つけ出すためのアタックリストなどを表示する「ユーティリティ」、営業リーダーや管理職が事業計画と実績を比較するのに使う「分析」の機能があり、トップ画面に3つのボタンが並ぶ。

 さらに今年7月には4つ目のボタンとして「戦略」が追加され、現場で各種のKPIの状況を1つにまとめた画面が閲覧できるようになる。

 KPIを作っても、それを現場に浸透させるのは簡単ではない。トランコムはKPIの変動をグラフ化するなど見せ方に工夫を凝らすとともに、「KPIをこんな風に使ってほしいというメッセージを毎月発信する」(加藤氏)といった工夫を凝らしている。

 なお分析ツールはウィングアーク1st(東京都渋谷区)の「MotionBoard」を全国の30拠点に順次導入。マッチングを担当する500人の営業スタッフ全員が活用している。

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