220以上の国・地域で事業を展開する物流世界大手の独DHLは、各企業のサプライチェーンが抱える“弱点”を明らかにしたり、実際にリスクが顕在化しそうな時にアラートを発したりできるリスクマネジメントツール「レジリエンス360」を昨年に開発。今年に入ってリスクの視覚化の機能などを強化し、さらなる普及を目指す。

 自然災害や大規模な停電、港湾労働者のストライキ、テロといった不測の要因で、物流に遅れが生じたり、工場が稼働停止してしまったりした場合、サプライチェーンは予定通り機能しなくなる。例えば製造ラインの停止に伴うコスト増や機会損失による売り上げ減といったかたちで、企業は大きな負の影響を被る。日本で2011年に東日本大震災が起きた時も、東北地方や関東北部に工場が集中していた自動車部品や半導体・電子部品が予定通り供給されず、世界中で多くの企業が影響を受けた。

 DHLはまず、顧客のサプライチェーンが抱えるリスクのうち、物流会社としてカバーすることができる領域を、「顧客企業のミスに象徴される運用上のリスク」「自然災害によるリスク」「流行病や大規模停電などによるリスク」「ストライキやテロなどの社会的政治的リスク」という4分野・20程度のカテゴリーに絞った。

拠点間の輸送時間や事故種類などのデータを集約

 そのうえで、世界中に展開する自社の輸送網を対象に、主要な輸送拠点間の輸送にかかる時間や輸送可能な貨物量、遅れの発生頻度、実際に起きた事故の種類と件数、事故が起きた時に現状復帰するまでのスピードといった多くのデータを蓄積。さらに顧客企業から、どこに拠点があり、それぞれの拠点がどんな製品を扱っているかといったサプライチェーンに関わる詳細なデータも入手。加えて、複数の保険会社やコンサルティング会社から、地域ごとの流行病や政治的混乱の発生確率や、世界の気候変動に関わるデータなどの提供を受けた。

 これらを組み合わせたビッグデータに対し、独自の分析アルゴリズムを駆使することで、サプライチェーンを構成する各拠点ごとのリスクのレベルや、問題が生じる可能性の特に高い顧客企業のサプライチェーンの“弱点”を明らかにする仕組みを作り上げたのだ。開発には3年かけた。昨年、販売を始めたところ手応えは予想以上で、「日本の大手メーカー1社を含む世界の大手企業10社が既に採用した」(DHLの日本法人、DHLサプライチェーンの八重樫大ビジネスディベロップメントマネージャー)と言う。

動く貨物の位置と現況を地図上に視覚化

 このレジリエンス360は、具体的には「リスクアセスメント」と「インシデントモニタリング」という2つのツールからなる。

 リスクアセスメントは、顧客企業のサプライチェーンを構成する各拠点のリスクのレベルを明らかにするほか、自然災害やテロといった特定のリスクが発生しやすい、「ホットスポット」と呼ぶ部分も指摘して、例えば拠点そのものの移設や輸送開始時間の変更といった代替案を示す。今回、顧客企業のサプライチェーン上を動く貨物の位置と現況を地図上に視覚化して見せる機能や国別に各種リスクのレベルを見せる機能を追加して、顧客企業は「自社サプライチェーンの抱えるリスクが分かりやすくなった」(八重樫氏)。

リスクアセスメントを使って、欧州に拠点を持つ大企業のサプライチェーンのリスクレベルを視覚化した図。カラーで見ると、赤色で表示されている拠点が何らかの理由でリスクが高いと一目で分かる
リスクアセスメントを使って、欧州に拠点を持つ大企業のサプライチェーンのリスクレベルを視覚化した図。カラーで見ると、赤色で表示されている拠点が何らかの理由でリスクが高いと一目で分かる

 もう1つのインシデントモニタリングは、顧客企業のサプライチェーンを24時間365日監視するツール。日々変動する監視データも加えたデータを分析し、サプライチェーンに含まれる拠点ごとに、リスクが顕在化する可能性を5点満点で評価する。アラートの出し方は顧客企業の要望を受けて設定する。リスクが顕在化する可能性が2点と低くてもアラートを要望する企業がある一方、4点を超えてからアラートを出してほしいと希望する企業もあるという。

様々なリスクのレベルを国別に示す図。今年加わった新機能の1つ
様々なリスクのレベルを国別に示す図。今年加わった新機能の1つ

 「多様なデータを蓄積・分析することで、サプライチェーンが予定通り機能するよう、安全性を高めることができる」と八重樫氏。今後はDHLサプライチェーンとして、レジリエンス360の日本企業への販売に力を注ぐ考えだ。ただし、レジリエンス360のインターフェースはすべて英語のまま。これが導入のネックとなるかもしれない。

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