2015年4月21~22日の二日間、東京・六本木の東京ミッドタウンホールで開催された「BigData Conference 2015 Spring」において、「着るだけで生体情報が計測できる素材を活用したIoT新事業」と題し、東レの佐藤雅伸 繊維加工技術部テキスタイル技術室担当課長、NTTの森内一成 研究企画部門チーフプロデューサー、NTTドコモの安部成司 ライフサポートビジネス推進部ヘルスケア事業推進担当部長が講演した。

NTTの森内一成 研究企画部門チーフプロデューサー

 NTTの森内氏は東レと共同で開発した新素材「hitoe」を紹介した。hitoeは「human intelligence to expand」の略称であり、一枚の布を指す「一重」や、データから取得した結果を「人へ」返したい、という思いも込めているという。服に使用し、人の生体データを取得するセンサーの役割を担う。

 hitoeの開発の経緯について森内氏は「当社の研究者の中に元外科医の者がいる。彼は、普段から心拍や心電をきちんとチェックする仕組みがあれば、もっと多くの人を助けることができるはずだと考え、医者から研究者に転じた。その思いを叶えるためにhitoeの開発を始めた」と説明した。

心拍や心電をきちんとチェックする仕組みを探求

 NTTは電気を通す物質である「導電性ポリマー」を布にしみ込ませる技術を持っていた。導電性ポリマーは布にコーティングすると、洗濯などの際にとれてしまうが、「しみ込ませると洗濯を100回程度してもとれることはない」(森内氏)。当初NTTはシルクに導電性ポリマーをしみ込ませていたが、「生体データを正確に取るためには十分に肌へフィットする必要があるが、シルクは繊維が大き過ぎたため、いい結果が得られなかった」(同)。

東レの佐藤雅伸 繊維加工技術部テキスタイル技術室担当課長

 そこで繊維の専門家に協力を依頼しようということになり、東レの門を叩いた。東レが持つナノファイバーの技術を使うことで、生体データを正確に取得できる素材が完成したという。東レとしても、「先端材料の強みを生かしてヘルスケア分野に進出できるチャンスだと捉えた」(東レの佐藤氏)。

 実際にhitoeをビジネスとして展開するに当たり、NTTドコモと協業した。NTTドコモの安部氏は「何もサービス展開などが決まっていない中で2014年1月にhitoeを発表し、年内にサービスの提供を開始することが決まった。大変なスピード感で事業を進めた」と振り返る。

NTTドコモの安部成司 ライフサポートビジネス推進部ヘルスケア事業推進担当部長

 2014年12月にはhitoeを使ったウエア型の心拍計測デバイス「C3fit IN-pulse」を、スポーツウエア大手のゴールドウインが発売した。NTTドコモはRuntasticと協業し、 「Runtastic for docomo」という月額課金のサービスを始めた。同サービスは、ランニングなど6種類のトレーニングと、ウエアによる計測データを連携させるサービスだ。

 NTTの森内氏は「シャツが出ました、電極が出ました、は我々の取り組みの『ステージ1』だと考えている。大事なのは取得した生体データをどう生かすかだ」と語り、「一つ考えているのは、生体データに全然違うデータを組み合わせたらどうなるかということだ。例えば、街で何かを見るたびにテンションが上がり、つい買い物をしてしまう、といったデータが見つかり、それをディープラーニングなどの手法で分析できたら新しい製品やサービスにつながるのではないか、といったことを考えいる」と続けた。

 森内氏は「今後の展開を準備して、東レやNTTドコモのように外部との協業を考えていきたい。まだ見ぬパートナーと何ができるか、といったことを考えていきたい」と話した。

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