2015年4月21~22日の二日間、東京・六本木の東京ミッドタウンホールで開催された「BigData Conference 2015 Spring」において、「データサイエンティストが語るビジネスが変わる予測分析の使い方」と題したパネルセッションが開かれた。モデレーターは大阪ガスの河本薫 情報通信部ビジネスアナリシスセンター所長が、パネリストをマーケット・リスク・アドバイザリーの大崎将行代表取締役、リコーの佐藤敏明コーポレート統括本部技師長 兼 データインテリジェンス推進部(DI推進部)部長が務めた。

「ビジネスが変わる予測分析」をテーマにディスカッションを展開した
「ビジネスが変わる予測分析」をテーマにディスカッションを展開した
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 大阪ガスの河本氏は最初に「これまで予測分析が実際にビジネスを変えた事例を教えてほしい」と質問した。

 これに対してリコーで全社のビッグデータ活用を先導するDI推進部を統括する佐藤氏は「@Remoteという、顧客の機器をリモートで監視するサービスがある。トナーが切れた際の交換や、故障などが分かる。全世界で240万台くらいの機器が監視対象になっており、日本のサーバーにデータが送られてくる」と説明。「このサーバーに毎日の診断データから故障予測をするモデルを組み込むことで、現地にいって修理する際の時間を短縮したり、故障を未然に防止して再訪問の回数を減らす、といったことができるようになった」と続けた。以前は、故障が起こった際に、機器の現物を見ないと故障原因が分からず、必要な部品を取りに帰らなくてはならない、といったことがあったという。

リコーの佐藤敏明コーポレート統括本部技師長 兼 データインテリジェンス推進部部長
リコーの佐藤敏明コーポレート統括本部技師長 兼 データインテリジェンス推進部部長
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 マーケット・リスク・アドバイザリーの大崎氏は「当社は市場価格のリスクを専門的に扱っているコンサルティング会社だ。製造業、商社、電力、ガスといった為替レートの変動の影響を受ける顧客をサポートしている」と話し、ネジやボルトの一次卸をしているサンコーインダストリーの事例を紹介した。

 同社は71万アイテムを扱い、4500の二次卸と取り引きをしている。毎日注文を受け、物流センターで出荷する作業をしているが、「運送会社の問題で、ある時間までに商品を渡さないと、送り先に望む時間に商品が届かないという問題が起きた。そのため、20時過ぎまでかかっていた発送作業の前倒しを考えるようになった」(大崎氏)。現場の担当者にヒアリングした結果、取引先ごとに注文を受ける時間に一定の傾向があることが分かり、「データ分析をして、どの取引先から発送作業をするかあらかじめ順番を決めることで、発送作業を1時間5分早く終えられるようになった」(同)。合計の残業時間も半分に短縮できたという。

 大阪ガスの河本氏は次に「予測精度が良くなればビジネスはよくなる、という論調があるが、そう簡単にいかないと思う。皆さんはどう思うか」と質問した。

 リコーの佐藤氏は「予測は会社の中にある課題を解決するためにあるので、常にアクションとペアになる。精度が高いことが良い、と言われることが多いが、予測精度が高いと、コストが高いアクションができ、精度が低いとコストが低いアクションしかとれないということだ。場合によっては精度が低いアクションで良いこともあるので、予測精度についても目的と一緒に考えることが大事だ」と語った。

 大阪ガスの河本氏もこれに応え、「当社で以前予測に取り組んだときに、『1週間先のことを、ある精度で予測してほしい』という要望を受けた。頑張って取り組んだが、結果的に目標を達成できず、『5日先であれば目標の精度が出せる』という結果になった。それを報告したところ、現場の体制を変更し、5日で対応できるように業務を変えてくれた」と語った。

予測は手段でしかない

マーケット・リスク・アドバイザリーの大崎将行代表取締役
マーケット・リスク・アドバイザリーの大崎将行代表取締役
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 マーケット・リスク・アドバイザリーの大崎氏も「予測は手段でしかない。目的をかんがみた場合にどこまでの精度が必要なのか、目的に対して求められる精度がどうかを考えることが重要。このバランスをうまくとらないと、必要以上に精度を求めてコストも時間もかかってしまうことになる」と話した。

 大阪ガスの河本氏は「次はコミュニケーションについて聞きたい。我々のような“間接部門”の人間が現場にいっても相手にしてもらえないことが多い。現場を動かしていくために必要なコミュニケーションについてアドバイスがあれば教えてほしい」と質問した。

 リコーの佐藤氏は「コミュニケーションなしには現場の問題は分からない。DI推進部の担当が、現場の担当者とコミュニケーションをしないと回答できないような質問をして、答えられなければレビューを通さないようにしている。レビューでどのような質問をするのかについて、上長は相当考え抜いている」と語った。

大阪ガスの河本薫 情報通信部ビジネスアナリシスセンター所長
大阪ガスの河本薫 情報通信部ビジネスアナリシスセンター所長
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 マーケット・リスク・アドバイザリーの大崎氏は「コミュニケーションのコツは二つある。一つが依頼主である役員や事業部長とのもの。こちらは報告でいかに安心させられるかが大事。もう一つが現場とのコミュニケーション。ビッグデータといえば新しいものに感じるが、現場の改善活動にほかならない。現場の方は気概、プライドを持って仕事をしている。どこを変えれば業務改善していくのか、現場の人は答えを持っていることが多いので、それを聞けるようにするのが大事だ」とした。

 大阪ガスの河本氏はパネルディスカッションの最後に「一つ言いたいのは予測は外れるということ。そして外れた場合は誰か責任をとらなくてはいけないということだ」と指摘した。そして「分析の担当者はこれを意識する必要がある。責任が小さいものもあるが、大きいものもある。大きな責任がかかる人のことを考えなくてはいけない」とアドバイスし、締めくくった。