「ビッグデータからビジネスに役立つ情報を抽出して価値に変え、売り上げにつなげる」という一連の流れは、新規事業開発の難しさそのものであり、確立した方法論はまだない。そこで、ブリヂストン中央研究所(研究第6部タイヤ情報研究ユニット)の花塚泰史氏がタイヤセンサーの実用化事例を紹介するとともに、野村総合研究所の鈴木良介コンサルティング事業本部主任コンサルタントが事業展開のフレームワークを解説した。

ブリヂストン中央研究所の花塚泰史氏
ブリヂストン中央研究所の花塚泰史氏

 講演の前半では、花塚氏がブリヂストンが開発したセンシング技術「CAIS(Contact Area Information Sensing)」の詳細を説明した。CAISは、自動車のパーツの中で唯一外部と接触するタイヤの中にセンサー一体型無線通信機を設置し、そこから収集されるデータを分析する技術である。

走行中の路面状態をリアルタイムで判別

 センサーで取得するのは、タイヤの歪みや加速度、圧力、温度など。これらのデータを解析することによって、タイヤにかかる荷重や応力を推定したり、路面状態を判別したりできる。今回の講演では、路面状態を判別する技術と、その技術の事業化へ向けた取り組みを紹介した。

 路面状態の判別には、加速度センサーから収集されたデータを利用する。走行時の加速度波形の特徴から、リアルタイムで路面状態を「乾燥」「半湿」「湿潤」「シャーベット」「積雪」「圧雪」「凍結」の7種に分析・分類する。判別アルゴリズムには、特徴抽出と機械学習を採用。この分析結果とGPS(全地球測位システム)の情報を組み合わせることで、100メートルごとに路面の状態を判別することが可能だ。

 単に、センシング技術を開発したわけではない。事業化へ向けて実証実験にも取り組んでいる。北海道内にある高速道路の保全点検業務を担っているネクスコ・エンジニアリング北海道(札幌市)と共同で、2011年から「凍結防止剤の自動散布」の実証を行っている。

 ネクスコ・エンジニアリング北海道は、冬期に雪氷巡回車を走行させて、路面の状態を目視で判別している。その後で散布車を走行させ、必要な箇所には凍結防止剤を散布している。路面を判別する単位は、インターチェンジやサービスエリアの間というように大ざっぱな区間になっていた。実際には、この間にも路面状態は変化しており、散布が必要と判断した区間にも乾燥している箇所がある場合もあり、散布剤が無駄になるケースも少なくなかった。

 共同の実証実験では、目視の代わりにCAISでセンシングを実施。100メートル単位の路面状態をリアルタイムでクラウド上に登録する。その後を走る散布車には、この情報をダウンロードするIT機器と散布の自動制御装置を搭載。100メートル単位で凍結防止剤の散布を自動制御している。

 この実験の結果、「圧雪」「凍結」が98%の路面では、目視と同様に凍結防止剤を散布。一方、「乾燥」が54%、「半湿」と「湿潤」が44%の路面では、目視に比べて、凍結防止の固形剤を45%、溶剤を19%と大幅に削減できた。最終評価を経て、実用化する計画だ。

ビッグデータをお金に代えるフレームワークを提示

 講演後半では、野村総研の鈴木氏がビッグデータを収益に結びつける秘訣を解説した。話の冒頭、「ビッグデータを見える化する取り組みが進んでいるが、それだけでは金にならない」と強調。その上で、収益に結びつけるまでのフレームワークを説明した。

野村総合研究所の鈴木良介コンサルティング事業本部主任コンサルタント
野村総合研究所の鈴木良介コンサルティング事業本部主任コンサルタント

 具体的には、(1)世の中の事象をデータに変換する(「世の中の事象」を「データ」に変換)、(2)データをどう解釈するか(「データ」を「情報」に変換)、(3)その情報で、どのように振る舞いを変えるか(「情報」を「価値」に変換)、(4)誰から金をもらうのか(「価値」を「売り上げ効果」に変換)――という4つのプロセスで構成する。

 ブリヂストンの実証実験では、タイヤセンサーの設置が(1)、分析アルゴリズムの開発が(2)、凍結防止剤の散布の最適化が(3)に該当すると解説した。

 鈴木氏は、「売り上げ効果」にまでたどり着いた事例として、約40カ国に設置されているリサイクルステーション「ビッグベリー」を取り上げた。ビッグベリーを一言で表現すると、「ネットワークにつながったゴミ箱」である。実際の容器の量は、それほど大きくはないが圧縮機能を備えているため、見た目よりも大容量のゴミを蓄積できる。電力は太陽光発電で賄っており、外部から供給する必要はない。

 ビッグベリーの大きな特徴は、搭載している3G(第3世代)の無線通信装置を通じて、自治体や大学などの施設管理者がリアルタイムで1台ずつのゴミの量を把握できることだ。管理者は、全てのゴミ箱の状況を分析し、最適なタイミングでゴミを回収できるようになる。

 ゴミがあふれて利用者からクレームが来るようなことがなくなるとともに、無駄な回収作業をなくすことが可能になった。しかも、最適な回収ルートも提示してくれるので、エネルギー効率もよい。ゴミの回収コストを85%も削減した例もあるという。

 ビッグベリーの事例を先のフレームワークに照らし合わせると、「ゴミ箱の満空情報」および「最適回収タイミング」という「情報」を、「最適なルートで回収する」という「価値」に変換しており、さらに「最大で85%のコスト削減」という「売り上げ効用」に変換していることになる。

【「BigData Conference 2015 Spring」報告記事一覧】

この記事をいいね!する