表情や声、身振りなどから人の感情を認識するヒト型ロボット「Pepper」が今年2月、ソフトバンクロボティクス(東京都港区)から開発者向けに発売された。メインターゲットとなる家庭向けは、今年夏頃になる予定だ。データ活用という観点で見た場合、Pepperの魅力は何と言っても、人の感情を認識できる点にある。
感情データを収集する家庭用の端末は今までにない。表情から感情を推定したり、声から感情を推定したりできる。さらにその両方から、「表現したい感情と、本心の感情のそれぞれを推定する技術を備えている」(ソフトバンクロボティクス プロダクト本部PMO室の林要室長)と言う。
Pepperが、人の感情を認識できるように作られたのには、理由がある。人を楽しませ、家庭の中ではなくてはならないペットと同様の存在を目指しているからだ。そのためには、「この料理作ってくれない?」「何かして遊ぼう」などと自らおねだりした際、自分のパフォーマンスが受け入れられているのか、好ましく思われているのか、相手の表情などから判断する必要がある。
人がPepperに近づくと、そのボディーを認識し、顔をとらえて目を合わせに行くという基本機能を備えている。人と目を合わせて話をする時に、人が話した言葉をテキストデータ化している。この言葉にどう反応するかはPepperに埋め込まれたデータベースから答えを導く。予測を超えた言葉だった場合には、クラウド上のデータベースの中から、適切な回答を引っ張ってくるという具合だ。

Pepperは表情の認識だけでなく、声のトーンも認識している。林室長は「声帯の部分は本能に近く、感情が声帯(の動き)に出やすい」と解説する。
こうして得られる表情や言葉の情報(テキストデータ)、声、手の動きなどを総合して、その人の感情がポジティブなのか、ネガティブなのか判断する機能が備わっているという。これがPepperの大きな特長だ。
感情データを生かして改良
Pepperは人を必要とするロボット。どのパフォーマンスが好評だったのか、人の感情データを通して分析している。今は判断の参考にすべきデータが少ないので、人がデータを見て判断している。と言っても、Pepperが収集する画像を、人が張り付いて見ているわけではない。例えば、このパフォーマンスの時に人が多く集まっているとか、後でデータを処理して判断しているという。
「Pepperの台数が増えて感情データの数がたくさん集まるようになれば、機械学習してPepperが判断するようになる。もともとクラウドロボット。最終的にビッグデータを集めていくことでPepperを賢くできる」と、林室長は話す。
将来的には、こういう性別、年代の人は、こういう生活パターンを持っていて、こうやって疲れていき、こうやって元気になっていくという状況が分かってくるという。ただし、「相当なサンプルが必要になるので、時間がかかる。Pepperの普及台数が何万台になると実現できるのかは、現段階で分からない」(林室長)。
幼児教育との高い親和性
当初から利用用途で有望なのは幼児教育だ。「Pepperは家庭教師になれる。特に小学校低学年ぐらいまでの幼児教育において、比較的親和性が高い。夕方1時間だけPepperと遊んでいいと言われて、毎日興奮してPepperと遊ぶ。遊びながら自然と英会話や中国語会話が身につく可能性がある」と、林室長は期待する。
Pepperは様々な言語を理解するが、アプリベースでネイティブスピーカーの発音しか認識しないようにも設定できる。子供の英語の発音がうまくできるまで丸はくれない。だから子供も必死で発音するという。既にPepperには、英単語で遊んでくれる基礎的なアプリが搭載されている。
順次、様々なアプリが開発されていく。これまでにない感情データを利用できることは、アプリ開発企業にとっては大きな魅力になるはずだ。どれだけ笑顔を得られるか、そんなKPI(重要業績評価指標)を設定して、顧客満足度の最大化を図るアプリが出るかもしれない。
明確な計画が発表されているわけではないが、将来的には米IBM「Watson」のような人工知能とも融合していく可能性がある。その場合は、家庭における“賢い長老”という位置づけになるだろう。