電通、新潟市、東京大学発のベンチャー企業であるゲノメディア(東京都文京区)の3者が、ゲノム解析を生かした「農産物高付加価値化プロジェクト」を、共同で始動させた。農産物をゲノム解析し、データに基づいて高付加価値の農産物を生産し、農業を活性化させ、地方の創生を目指すのが狙いだ。

 農産物のゲノムはサイズが大きなものも多く、ゲノム解析に時間とコストが膨大にかかるため、10年ほど前までは多くの専門家が手を出せなかったという。しかし、DNAの塩基配列を高速で読み取る配列解読装置「次世代シーケンサー」が米国で開発された2007年頃から、ゲノム解析のスピードが年々、格段に上がり始めた。「同一のゲノムを解析するスピードが技術の進歩で2倍に早まるまで、以前は19カ月かかったが、最近では5カ月しかかからないようになったほど」(ゲノメディアの山田智之代表取締役)だ。

 この流れを受け、山田氏らは、同じ東京大学発のベンチャー企業で、携帯電話向けブラウザーなどの開発を牽引したACCESSの共同創業者、鎌田富久氏からの出資を得て、2013年にゲノメディアを起業。ゲノム解析とそのデータ化による本格的な商用化を目指し始めた。

 今回は、「様々なテクノロジーと、電通が得意とするコミュニケーションを軸とするビジネス領域を組み合わせて、新規事業を開拓したい」(電通・新聞局業務統括部の吉野公貴氏)と考えている電通が、そのゲノム解析の技術力を高く評価するゲノメディアとまず手を組み、2014年に大規模農業改革拠点として国家戦略特区に指定された新潟市とも提携してプロジェクトを始めた。

 プロジェクトの目的は2つ。1つは、ゲノム解析を応用した新品種の開発つまり品種改良。もう1つは、既存品種をゲノム解析することで何らかの特徴を見つけ、その特徴を生かして当該品種の商品としてのブランド力の向上を図ることだ。

 新品種の開発に当たっては、主に電通が消費者からの声(市場ニーズ)と生産者からの声(生産現場の事情)を集めて、分析する。その際、同社の強みを生かし、顕在化した声だけでなく、消費者の潜在的なニーズや生産者が抱えているまだ見えていない課題などを浮き彫りにし、開発方針に反映するという。「消費者のニーズに応え、同時に生産者の課題を解決できるような新品種を、ゲノム解析技術を使って作り上げること」(吉野氏)が目的の1つだ。

電通、ゲノメディア、新潟市が取り組むプロジェクトの概要
電通、ゲノメディア、新潟市が取り組むプロジェクトの概要

新潟市産茶豆のブランド化を狙う

 ただ、「新品種の開発には10年、20年かかってもおかしくない」(山田氏)。そこで、プロジェクトとして早く結果を出すため、第2の目的として、ゲノム解析で得られたデータを使って既存品種のブランド力の向上も目指す。

 同じ品種の作物でも、産地によって名称や見た目が異なり、それによって消費者の評価、つまり価格が異なる場合は少なくない。そこで、新潟市で生産される代表的な農産物を選び、同時に全国で生産される同種の農産物を可能な限り集め、それらをすべてゲノム解析し、データ化する。そのデータを相互比較することで、新潟市産の農産物に何らかの特徴を見いだし、そこをアピールして、消費者に対する当該農産物のブランド力を引き上げようというのだ。

 「例えば、新潟市の農産物が消費者からの評価の高い○○産と同じゲノムだと分かれば、『○○産に匹敵!』などのうたい文句を付けてアピールできるかもしれない」(吉野氏)。

 最初に取り上げる新潟市の代表的な農産物は、枝豆の一種である茶豆だ。新潟市産の茶豆に加え、電通が持つ広範な地方ネットワークを活用して全国から茶豆を集め、ゲノメディアがそれらをゲノム解析。そこで得られたデータに基づいて、電通がブランド力を引き上げる施策をプランニングする。

 茶豆は一般的に5~10月が収穫期と販売期のため、年内に茶豆の収集とゲノムの解析を実施し、来年の販売期に、新潟市産の茶豆のブランド力を向上させる施策を展開する腹づもりだ。「プロジェクトが軌道に乗れば、農産物だけでなく土壌に潜む微生物などもゲノム解析してより精緻なデータを収集・分析する一方、高付加価値の農産物を扱う流通経路の開拓や活性化なども手がけたい」(吉野氏)と考えている。

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