ビッグデータ活用の先頭集団を走るリクルート。強さの源と言える約200人の専門家集団の実像を、「ヒト」「カネ」「データ」から解き明かす。前編では、専門家集団が生み出した成果の一部を紹介する。

 リクルートグループの中核事業会社の1つであるリクルートライフスタイルは、ビッグデータの活用にとりわけ熱心だ。

 旅行の予約情報などを扱う「じゃらん」、グルメ情報を扱う「ホットペッパーグルメ」、美容情報を扱う「ホットペッパービューティー」といった有力なメディアをいくつも抱えている。これらのサイトを訪れる顧客の動向データや、商材の販売履歴データなどのビッグデータを分析し、収益に結び付く有効な施策をいくつも打ち出してきた。

 2年前からデータ活用のスピードを上げるためのインフラ作りにも取り組んでいる。事業に関わるプロデューサーやマーケターがパソコンの画面で必要なデータや分析法を指定していけば、欲しい分析結果がすぐに表示されるBI(ビジネスインテリジェンス)機能も用意した。それまでデータが欲しい担当者はそれぞれ自らExcelデータと格闘していたが、そうした手間がなくなった。

 過去に部内で寄せられた「こんなデータをこんな形で欲しい」というニーズをパターン分けし、データマート(小規模のデータベース)にすることで、データの集計や分析にかかるスピードを速めるなどの工夫を凝らした。その結果、それまで丸一日かかっていたようなデータ分析作業が1~2時間で終わり、「レポートの作成などに費やすプロデューサーらの労働生産性は、このツールを使う前に比べて約15倍になった」(リクルートライフスタイルの東誠執行役員ネットビジネス本部ディベロップメントデザインユニット長)という。

 これらのデータ活用を支えているのが、リクルートライフスタイルの中にある“ビッグデータ部隊”である。ネットビジネス本部ディベロップメントデザインユニット リーンアナリティクスグループの前田周輝分析チームリーダーは、外部パートナー企業の常駐スタッフを含めて10~15人という陣容を率いる。

 事業部やグループ内にある様々なデータのテーブルを組み合わせたり、データの不完全なところを修正したりするなどして使えるデータを“開発”している。その力量や体制は、データ活用で先進的な国内企業のデータ分析専門部署と同等かそれ以上だ。

200人のビッグデータ専門家集団

 リクルートの凄味は、そうした事業会社のエキスパートに加えて、データ活用の専門家集団を抱えていることだ。

 グループ内に3つある機能会社の1つであるリクルートテクノロジーズの中に置かれた「ビッグデータ部」である。ビッグデータ部は、マーケティングなどへのデータ活用に取り組む「活用グループ」、高速分散処理のHadoopなどデータを活用するためのインフラを整える「基盤グループ」の2つで構成し、そこで働くデータサイエンティストやエンジニアの数は、「外部パートナー企業の常駐スタッフを含め、約200人に達する」(リクルートテクノロジーズの西郷彰専門役員)と言う。

リクルートのビッグデータ活用戦略の要諦を担うリクルートテクノロジーズのメンバー
リクルートのビッグデータ活用戦略の要諦を担うリクルートテクノロジーズのメンバー

 この規模は、データ専門の組織であるデータソリューション本部に約200人のスタッフを抱えるヤフーや、50人超(2014年4月時点)のデータサイエンティストを擁する楽天などと比較しても、十分に対抗できる陣容だ。

 リクルートがビッグデータ活用にアクセルを踏んだのは、実はここ3年である。業績を見ても、売上高は4期連続で増収の達成は間違いない。大きな投資をしつつも、営業利益は1100億~1200億円台を確保している。ビッグデータを活用した効果が、成長に反映されているとみてよいだろう。

リクルートホールディングスの収益
リクルートホールディングスの収益

 リクルートは2012年4月に峰岸真澄氏が社長に就任し、同年10月にホールディングス制を導入。(1)持ち株会社(リクルートホールディングス)、(2)実際のビジネスを担う事業会社、(3)多くの事業会社に特定の機能を提供して支える機能会社、に分社化した。

 リクルートテクノロジーズを(3)の機能会社としたのは、日進月歩で進歩するビッグデータ関連技術のスピードに追いつき、迅速な対応を実現するため。人と技術を自前で抱える決断を下したのだ。

データ活用施策でコンバージョンが最大1.4倍に

 例えば、中核事業会社の1つであるリクルートマーケティングパートナーズの中で、主に中古車販売情報を扱うメディアの「カーセンサー」。リクルートテクノロジーズのビッグデータ部ビッグデータ2グループの石川信行氏は「事業会社と手探り状態でプロジェクトを始めて、有効なデータ活用施策を見いだしていった」と振り返る。

 改善後のサイトでは、利用者の動きを見て、車種の絞り込みに迷っているとシステムが判断した利用者には、「地域で絞り込んではどうでしょう」「このタイプの車種ではどうでしょう」といった内容のポップアップ画面を出し誘導する。

 これまで蓄積されたデータから、こうしたサイト上の動きをする利用者はもうすぐ購入を決断するはずと判断したら、「他にも検討しているお客様がいらっしゃいます」というポップアップ画面を出し、決断を後押しするという具合だ。

 導入の結果、「ポップアップを出した利用者のコンバージョン率は、ケースによっては1.4倍に上昇した」(リクルートマーケティングパートナーズ ネットビジネス本部プロダクトマーケティング部UXデザイングループの山崎吉倫グループマネジャー)と言う。

 リクルートは多くの自社メディアへのアクセスログやそこでの購買履歴、提供する商品やサービスのデータ、会員登録した利用者の個人データ、広告主のデータなど、データそのものを大量に保有している。現在、ビッグデータ部が扱っているデータのサイズだけでも約300テラバイトに達し、1日約600ギガバイトずつデータ量が増えている状態だ。DVDに換算して約120枚分に相当するデータ量が増えていることになる。

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