クボタは農機から得られるデータを活用した新事業を2014年6月に始めた。農家がコメのおいしさを把握したうえで、収量とのバランスを保ちながら土壌を改良できるようにした。

 「農機の機器販売から、栽培や経営の支援まで踏み込むことで農家の課題を解決したい。市場環境は大きく変化しており、いち早く取り組む必要がある」。クボタ農機第一事業推進部の長網宏尚・KSAS業務グループ長は、クボタスマートアグリシステム(KSAS)の開発に乗り出した背景をこう説明する。

 クボタはコンバインやトラクター、田植機に新型センサーと通信機能を搭載し、肥料の投下量やコメの収量などの作業記録を管理することで、農業経営を支援するサービス「KSAS」事業を昨年6月に始めた。

味と収量の最適化支援

 プロジェクトに取り組むにあたっては“農業の基礎”を社内外の知識を使ってもう一度学び直した。農家の経営を安定させるため、おいしいコメをより多く収穫するためクボタができることは何かということを追求するためだ。「どのデータが役立つ数字に結びつくのか、なんとか相関関係を見つけ出したかった」(長網氏)。

 こうして製品化されたのが、収穫量だけでなく食味まで測定できるセンサーを備えたコンバインである。内部に搭載する新型センサーが、コメに含まれるタンパク質と水分量を測定し、そこから食味を想定するというものだ。収穫時に1反当たり5~6回計測して平均値を算出する。

 これらのデータはコンバインの運転席にあるパネルに表示されるほか、専用スマートフォン(月1400円の通信料が必要)を介してクラウドサービスにデータを送信。圃場(ほじょう、田畑のこと)ごとに収量や食味をビジュアルに分析できるようになっている。

 コメのタンパク質の含有量が高いと、固く粘りが少なく、食味が劣るという。一般に含有率が5~8%であるとおいしいとされ、この範囲にあるコメの値付けを高くするといったことが可能になる。コメの水分含有量も分かるので乾燥の時間を調整すれば、電気代の節約につながる。

 さらにデータを基にして、次の作付けにおいて改善するPDCAサイクルを回せるようにもした。

 具体的には、作付け時に田植機やトラクターでどの程度の肥料を投下したのかを調整しながら管理する。肥料に含まれる窒素成分が多いほど、収量は増える。ただ窒素が多いと、タンパク質の含有量が増え過ぎてしまう恐れがある。

クボタが農機に装着したセンサーとそれによって実現するメリット
クボタが農機に装着したセンサーとそれによって実現するメリット

実地で15%の収穫増を確認

農家で試行したコメの食味と収量の改善
農家で試行したコメの食味と収量の改善

 これらの仮説を基にある農家において、2011年から13年まで3年間のフィージビリティスタディを行ったところ、15あるすべての圃場でタンパク質の含有率を目標の5.5~6.5%に収めることができた。収量についても改善が見られ、単位面積当たりの収穫量が約15%増えたという。

 複数の圃場を持つ大規模農家にとってはそれぞれの圃場の品質のバラツキも頭の痛いものだったが、そうした悩みも解消できたのだ。

 KSASはクボタ自身の改革の象徴でもあった。

 プロジェクトが始まったのは2012年の4月。その時点でクボタの技術部門は、食味や収量を向上させる方法、クラウドサービスによる営農支援、車載用の無線技術などを個別に研究しノウハウを持っていた。

 長網氏ら5人が集まって、こうした技術を集結させることで、農家の経営に必要なことができるのではないかとコンセプトを整理して企画書をまとめあげた。農機の自動運転も話題の1つに上がったという。

農機とITの融合という未知領域

 最初にやるべきことは組織や人員体制の整備だった。「次世代農機の開発は農機とITの融合という未知の領域であり、さらにクラウドを活用した本格的なサービスの提供も初めてだった」(長網氏)。

 クボタの経営陣もこうした融合領域に向けた手を打ち始めていた。プロジェクトの立ち上げと時を同じくして2012年4月に全社的な組織改革を20年ぶりに実施。農機技術本部を設置して、コンバイン、トラクター、田植機、汎用、車両基礎など各技術部を束ねる組織に刷新した。

 KSASプロジェクトは技術やサービス面の検討を重ねて2012年12月に開発に着手。13年4月には事業化へ向けた検討を本格化させた。大阪の本社内に大部屋を用意してもらい、当初メンバーに加えて、技術部やIT子会社のクボタシステム開発など、合計約40人が1カ所に集まった。「事案が発生するごとにメンバーを招集していては、問題解決のスピードが落ちてしまう」(長網氏)からだ。

 クラウドなどのIT面ではクボタシステム開発が要件定義や実装、販売会社向けの研修などを担当した。

 通信の確保とデータ形式の統一が課題だった。KSASは運転者が持つ専用スマホを通じて、クラウドサービスにデータ送信する。運用する際には、通信に使う無線LANが途切れることも想定される。「農機の種類によって情報の出力が違うことがあった。実際に農機のセンサーで得たデータがきちんとクラウドサービス側に情報として登録されるのか、慎重に検証をしていった」(クボタシステム開発のビジネスソリューション事業部ソリューション第二部SASプロジェクトチームの水原祥光主査)。

 もちろん本社に閉じこもってばかりいてはだめだ。工場や事業所内で農機の動作を確認したうえで、新潟と東海地方の協力農家に実機を持ち込んで評価やヒアリングに飛び回った。ITの担当者も農家に同行し、実際の現場における操作性や環境に依存した問題点を把握していった。

 現在のところサービス全体で700件、食味などセンサー情報をフルに活用する上位サービス(月額6500円、加入当初の無料期間あり)は100件と契約数の増加はこれからだ。ただ環太平洋経済連携協定(TPP)などによる海外との競争激化、後継者難などにさらされ、農業の効率化は喫緊の課題である。大規模化するにも一定の基準を設けて、従業員の作業を管理したいという要望もある。

 クボタは今後もこうした課題をクリアすべく、ビッグデータの活用を進めていく。例えば、熟練者の操縦を学習し、自動で運転できるようにすることも検討している。地域によって農機の扱いや部品の劣化などに差があることも見えてきた。こうした情報を次なる商品やサービスの開発に生かしていく。

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