日経ビッグデータは2月20日、富士ソフト アキバプラザ(東京都千代田区)において、本誌読者限定の無料セミナー「ビッグデータが開く近未来 ~2020年への展望~」を開催した。今やビッグデータ活用の効果は、業務効率の改善だけにとどまらない。人の働き方を変える、産業構造を変革する、社会課題を解決するための「原動力」となる可能性を秘めている。セミナーでは研究、事業、行政の分野からビッグデータ活用が開く未来のビジョンを持った第一人者を招き、その取り組みを紹介した。

日立製作所中央研究所主管研究長の矢野和男氏
日立製作所中央研究所主管研究長の矢野和男氏

 「われわれは『ビッグデータ』ということばがなかった時代から、大量のデータを分析することで、人間行動や社会現象を詳らかにしてきた。こうした発見は、学問だけにとどまらず、企業の利益にも直結する――」

 こう主張するのは、ベストセラー書籍『データの見えざる手: ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』の著者であり、日立製作所中央研究所主管研究長で東京工業大学大学院教授の矢野和男氏だ。

 2006年以来、同氏の左手には、ウエアラブルセンサーが24時間365日装着されている。同センサーには、人体の動きを毎秒20回ずつ3次元で把握する加速度センサーと赤外線センサーが備わっている。こうして収集されたデータから発見できる人間・組織・社会の従う法則を、矢野氏は「データの見えざる手」と名付けた。講演では、データの見えざる手で、実際に組織の業績を向上させた施策を、具体的な実証事例を交えながら紹介した。

 ビッグデータ活用でどのように儲けるか。今、多くの企業がこの課題に直面している。矢野氏は、ビッグデータで儲けるための3原則として、「向上すべき業績(アウトカム)を明確にする」「向上すべき業績に関係するデータをヒトモノカネに幅広く収集する」「仮説に頼らず、コンピュータに業績向上策をデータから逆推測させる」を挙げる。

 従来のデータ分析は、人間の仮説に基づいてコンピュータがデータを検証していた。しかし、「ビッグデータを扱いだしてから、人間の仮説は(ビッグデータには)通用しない」ことに気がついたという。その課題を解決すべく開発したのが、人工知能「H(開発コード名)」を搭載した、自ら学習するシステムだ。業績に結びつくマクロなデータと、そこに影響する可能性を持ったミクロなデータを入力することで、マネタイズの最適化条件を導き出す。

 例えば、ホームセンターの客単価向上施策では、従業員と来店者に店内の行動をモニタリングできる名札型のセンサーを装着してもらい行動データを測定。このデータとPOS(販売時点情報管理)データ、店舗設備の配置などのデータを組み合わせて購買行動を分析し、「H」で売り上げ向上につながる要因を探したところ、「店内の特定位置に従業員を配備する」との施策が導き出された。その場所に従業員を配置した結果、客単価が15%向上したという。

2月20日に開催した読者セミナーには200人近い受講者が詰めかけた
2月20日に開催した読者セミナーには200人近い受講者が詰めかけた

 「データの見えざる手」で明らかになったことがもう1つある。それは、「従業員の“ハピネス”を高めると、会社は儲かる」ということだ。その実証例の1つとして矢野氏は、コールセンターの受注率向上の取り組みを紹介した。コールセンターのスタッフに、ウエアラブルセンサーを装着してもらい、行動と受注率の関係を分析したところ、休憩時間に活発に雑談をしていると、受注率が高いことが判明した。これを受け、休憩時間に雑談がはずむよう同世代のチーム4人で同時に休憩をしてもらった結果、受注率は13%も増加した。

 矢野氏は、「職場の活気は、ビジネスに直結する。例えば、プロジェクトに携わっているメンバーのハピネス度が低ければ、そのプロジェクトは低迷する可能性が高いことが予測できるので、早期に施策を打てる」と説明する。

 とはいえ、「人工知能が人間より勝っていると言う気は毛頭ない」と矢野氏。「向上すべき業績が明確であり、これに紐づくデータが大量に取れている状況では、(ビッグデータ活用は)人間が太刀打ちできないほど強い経営の味方になる。今後、人間とコンピュータで役割を明確化し、相互を補完する形で発展していくようになると考えている」と語り、講演を締めくくった。

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