自動車の走行距離や「急ブレーキをかける」「ハンドリングが荒い」といった運転者ごとに異なる運転特性などの運転関連データを、車載の情報機器で収集・分析し、保険料に反映させる「テレマティクス保険」と呼ばれる新しい自動車保険の販売に、日本の損害保険会社が積極的に取り組み始めた。

 テレマティクス保険には、走行距離が短いと保険料を引き下げ、長いと引き上げる「走行距離連動型(PAYD:Pay As You Drive)」と、安全運転する人は保険料を引き下げ、安全運転ができない人は引き上げる「運転行動連動型(PHYD:Pay How You Drive)」がある。これらを導入する損害保険会社は、データによって事故を起こすリスクが少ないと判定された運転者の支払い保険料を割安にすることで、自社商品の販売を強化する狙いがある。

 例えば、直販型保険が主力のソニー損害保険(東京都大田区)は、急ブレーキや急加速が少ない運転者に対して保険料の一部をキャッシュバックする個人向け保険「やさしい運転キャッシュバック型」を、近日中に販売開始する予定。これはPHYD型になる。

 また、あいおいニッセイ同和損害保険は昨年末、英テレマティクス保険大手のボックスを買収して欧州でテレマティクス保険の販売強化に乗り出した。さらに、日本でも2015年度中に、トヨタ自動車の新型カーナビゲーションシステム「T-connect(Tコネクト)」搭載車のみを対象に、走行距離に応じて保険料を見直すPAYD型自動車保険を売り出す。

 これまでもトヨタ自動車のカーナビシステム「G-book」搭載車向けに同様の保険を販売していたが、トヨタ自動車が車載システムをT-connectに刷新したのに伴い、走行距離1km単位で保険料が変わり、しかも翌々月の保険料に反映される新型保険を投入する予定だ。

運転特性を「点数」で表示

ソニー損保が保険契約者に貸与する専用機器(ドライブカウンター)
ソニー損保が保険契約者に貸与する専用機器(ドライブカウンター)

 ソニー損保の場合、利用者がWebサイトでPHYD型保険を申し込むと、センサー内蔵の計測機器(ドライブカウンター)を含むトライアルキットと取扱説明書が送られてくる。利用者は機器を、自分のクルマの指定位置に両面テープなどで設置して30日間運転し、その後、機器をソニー損保に返送する。ソニー損保は返送された機器が収集・分析したデータを抜き取って、運転診断レポートを作成してメールで利用者に送信する。集めるのは主に、どの程度の頻度で、かつどの程度の勢いで、急ブレーキをかけたり、急加速をしたりしたかというデータになる。

ソニー損保が契約者に送る診断レポートのイメージ
ソニー損保が契約者に送る診断レポートのイメージ

 運転診断レポートには、データから独自アルゴリズムで算出した点数を示す。例えば点数が90点以上だと、支払い保険料額に対するキャッシュバック率20%、同80~89点は同15%という具合。59点以下はキャッシュバックはされない。これまでの自動車保険に対する特約という形の新商品になるため、当初支払う保険料はこれまでの保険に比べてやや割高になるが、“やさしい”運転でキャッシュバックを受ければ、これまでより支払う額は割安になるという仕組みだ。

 利用者はこのレポートの点数を見てから、実際に保険に加入するかを判断できる。「自分が思っているよりクルマの運転が荒い運転者は、キャッシュバックの恩恵を受けられないケースもある。そういう運転者は従来の自動車保険のままのほうが割安なこともあるので、実際に試してもらう機会を設けた」と同社の安田和義・自動車商品部長は語る。

 実際に契約すると、本番用の計測機器が送られてくる。それを設置してクルマの運転開始後、180日程度が過ぎると機器に「申告可」のランプがともる。次に所定のボタンを押すと、機器に点数が表示される仕組み。点数を弾き出すアルゴリズムは計測機器に内蔵されている。後は利用者がこの点数と機器に記されたIDを、ソニー損保の専用サイトに記入するだけ。すると保険契約終了後の次年度に、原則、利用者が指定した金融機関の口座にキャッシュバックがなされる。利用者は契約終了後、機器をソニー損保に送り返す。

 実はソニー損保の仕組みは、専用の計測機器を使うが、データのやり取りに通信は使わず、通信料金が発生しない。「2008年から検討を始め、どうすれば運用コストを低く抑えたテレマティクス保険を導入できるか考えてきた」(安田氏)。その結果が、センサーを使って走行距離や運転特性といったデータを収集するものの、通信回線は使わず、素人でも簡単に設置できる外付けの低価格な専用機器を開発し、利用者に貸与するという仕組みだったわけだ。

 ソニー損保では、新型保険に加入した運転手から集めたデータをさらに分析し、アルゴリズムを改善するなどして保険を改良し、2~3年後をめどに新商品を発売する考え。なお、「自社の保険開発以外にデータを活用することは考えていない」(安田氏)と言う。

あいおいニッセイはPAYD型のみを販売

 一方、あいおいニッセイ同和損害保険の場合、トヨタ自動車のT-connectと連動させたPAYD型自動車保険は売り出すものの、欧州でボックスが販売するPHYD型自動車保険については、「ノウハウはボックスから吸収するが、日本では当面、販売を考えていない」(同社広報部)と言う。日本の自動車保険には外国にない「等級制度」があり、事故の有無によって上がったり下がったりするこの等級が運転手の事故を起こす確率を今のところ示していると考えているからだ。

 もっとも、欧州や米国では自動車保険に占めるテレマティクス保険の割合が急伸しており、ベルギーのPTOLEMUSの調査によれば、特に最先端を行く英国では、2020年に40%に達すると予測されている。ソニー損保に続いて、日本でもPHYD型自動車保険を販売し始める損害保険会社が出てこないとは限らない。

 また、損害保険ジャパン日本興亜のように、保険料の見直しではなく、商用車を扱う企業向けに安全運転支援サービスを新規事業として展開する場合もある。同社の場合、クルマに設置した東芝製機器(ドライブレコーダー)で運転関連データを収集。そのデータを蓄積・分析して、顧客企業とその所属運転手に対して、安全運転のためのアドバイスを今年3月から有料で実施する。

 こうしたビッグデータの収集・蓄積・分析を通じて、運転関連データと自動車事故との相関性をはっきりさせることができれば、よりきめ細かい商品設計がなされた自動車保険や新サービスの開発が期待できそうだ。

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