データ分析リーダーの使命をすかいらーくの取り組みから学ぶ本特集。中編は、同社が分析の基本に置くレシート分析のシステムを解説する。キャンペーン内容を改善し、粗利が4倍になる事例もあるという。

データ分析リーダーの使命をすかいらーくの取り組みから学ぶ。同社が分析の基本に置くレシート分析のシステムを解説する。キャンペーン内容を改善し、粗利が4倍になる事例もあるという。

 神谷勇樹ディレクターが立ち上げたインサイト戦略グループはマーケティング本部の下にあり、「横断分析チーム」「コンシューマーインサイトチーム」「ブランド分析チーム」の3つのサブチームに分かれている。

「インサイト戦略グループ」組織の位置付け
「インサイト戦略グループ」組織の位置付け

 横断分析チーム(3人)は、「ガスト」「ジョナサン」といった店舗ブランドを横断して、横串で分析するチームだ。新しい分析手法を導入して分析組織全体に展開する役割を担う。

 最近では、宅配事業のデータ分析の仕事が加わった。すかいらーくの宅配事業は2桁成長を続け、すかいらーくの全社売り上げの10%弱を占めるに至っている。しかも宅配の注文の半分近くがネット経由なので、誰が何を注文したかというデータがきちんと取れている。

 コンシューマーインサイトチーム(5人)は消費者や競合の調査を担当。クラスタリングなどの手法を用いて顧客を分類している。また、販促手段ごとの顧客満足度などを分析している。顧客を深く理解して顧客へのアプローチ方法を改善することが同チームの役割だ。POS(販売時点情報管理)のデータ、アプリ利用者のデータ、満足度アンケートの回答結果のデータなどを利用して、メニューと顧客グループとの関係を解明している。

 Tポイント会員の分析をCCCに依頼するのもこのチームだ。店舗でTポイントを利用する人の割合がかなり増えていて、全来店者の10%以上に達している。顧客属性の調査に役立つのでCCCの分析サービスを恒常的に利用しているという。

 すかいらーくはメニューごとに食材、調理法、味付け、分量などの属性項目を100個も付けている。このためPOSデータの分析だけでも、顧客をかなり詳細に理解できる。例えば昼間にグループで来店する人、深夜に1人で来店する人…、それぞれどんな食材や調理法などを好んでいるかなどが分かる。

 ブランド分析チーム(8人)は「ガスト」「ジョナサン」「バーミヤン」といった店舗ブランドを軸にデータを見ている。従来のデータ分析組織を発展させたチームだ。キャンペーンメニューなど施策の効果を店舗ブランドごとに点検し、メニューやプロモーションの切り替えといった改善策を練るのが仕事だ。

まず分析システムの土台をつくる

すかいらーくの分析チームを率いるマーケティング本部インサイト戦略グループの神谷勇樹ディレクター
すかいらーくの分析チームを率いるマーケティング本部インサイト戦略グループの神谷勇樹ディレクター

 神谷氏は分析システムの基盤作りにも取り組んでいる。まず、社内の基幹システムから送られてくるPOSデータを日々蓄積するデータ分析用のデータウエアハウスを開発した。開発に着手したのが2014年1月で、そのわずか1カ月後に稼動させている。1年間にレシートベースで10億件のデータが追加される。

 2つめはガスト公式アプリのサーバー側のデータベースだ。これは年間で3億件のペース(1日に70万から100万件)でクーポン利用状況などのデータが追加される。3つめはレシートに印刷されたアンケートに顧客がWebサイトで回答した結果を蓄積したデータベースだ。

 これらの3種類のデータは全て米アマゾン・ドット・コムのクラウドサービス「アマゾンウェブサービス(AWS)」上で管理している。主力の分析ツールとして使っているのは日本IBMの「SPSS」と米タブローソフトウェアのBI(ビジネスインテリジェンス)ツール「Tableau」だ。それに加えて、キャンペーン効果を一部の店舗で事前検証する目的で米アプライド・プレディクティブ・テクノロジーズ(APT)の実験計画法ソフト「Test & Learn」を導入している。

レシートベースのデータが必要

 すかいらーくが最初に分析用のデータウエアハウスを導入したのは2009年にさかのぼる。谷社長が経営の再建に舵を切った翌年のことだ。「店舗単位」でどのメニューが何回注文されているか、「メニュー単位」で売り上げと粗利がいくらになるかを素早く集計できる仕組みだった。

 しかしそれらを集計する前の、「顧客単位」のレシート(POS)のデータに戻って、細かく分析することはできなかった。

 メニュー単位の売り上げと粗利からは、クーポンを出せばメニューの注文数は増加するが、メニューごとの粗利の率は落ちるといった程度のことは分かる。しかし、一緒に注文されることの多いメニューの組み合わせなどは分からない。ステーキを注文した人たちの、サイドメニューを含めた客単価や粗利がいくらなのかということも分からなかった。

 すかいらーくは、クーポンの発行で収益増加につながったのかどうかを、(1)来店客数が増えたのか、(2)顧客1組当たりの粗利は増えたのかの2点で見ている。その分析には、レシートベースのデータが必要になる。経営にデータやサイエンスの力を加味してマーケティングの技術を磨くには必須だった。これが分析システムのインフラを作り直した理由だ。

 クーポンが収益の向上に結びついていないことが分かれば対策を打つ。例えば2014年3月、「スクラッチくじ」のクーポンの内容を変更した。スクラッチくじは、1000円以上の食事をした人が引ける店舗限定のキャンペーンだ。くじに外れはなく、キャンペーンメニューやサイドメニューなどのクーポンが必ず当たる。

 しかし、レシートベースでのデータ分析の結果、収益に十分貢献していないことが判明した。そこで、くじで当たるクーポンのメニューを変えた。この結果、キャンペーンの費用は従来と変わらないまま、キャンペーンで得られる粗利が4倍になった。こうしたクーポンによる売り上げ向上に加えて、データ分析はマーケティング費用の削減にも貢献している。

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