すかいらーくがデータ分析に力を入れ、収益を伸ばしている。分析リーダーの神谷勇樹氏はグリー出身、ゲームビジネスの手法も生かして顧客を引き寄せる。特集前編は、分析組織「インサイト戦略グループ」を2倍以上に増強した理由を明かす。

外食不況の中、すかいらーくグループは利益を大きく伸ばしている。写真はガスト西鎌倉店
外食不況の中、すかいらーくグループは利益を大きく伸ばしている。写真はガスト西鎌倉店

 東証1部に昨年10月、8年ぶりに再上場した外食大手すかいらーくの業績が好調だ。2013年12月期の連結純利益(国際会計基準)は前の年の75億円から101億円に拡大。2014年にはさらに27%増加して、129億円になると同社は予想している。

 今年も利益は伸びそうだ。日本経済新聞は1月17日、すかいらーくの今期の連結純利益が140億円になる見通しだと伝えた。過去最高益だった1999年の141億円にならぶ水準だ。

 出店攻勢をかけるのではなく、既存店の収益力の向上に努めていることがデータからうかがえる。グループ全既存店の2014年の売り上げを見ると、前年比で1.6%増と手堅い。収益面ではもっとうまくいっていて、全既存店の客単価は2014年、前年と比べて3.6%増加した。すかいらーくグループの主力ブランドである「ガスト」で販売した「やわらか贅沢ビーフグリル」のように単価の高いメニューが人気だった。

すかいらーくの直近の業績(連結)
すかいらーくの直近の業績(連結)

 円安による食材のコスト高や消費増税の逆風を外食産業全体が受ける中、利益を伸ばしている。この好調を支える背景には、同社がここ1年強で大幅に強化してきた、ネット企業も顔負けのデータ分析力があった。

 すかいらーくは2006年にMBO(経営陣が参加する買収)で上場を廃止した後、たたき上げの幹部だった谷真氏が2008年に社長に就任。それまでの急拡大路線を転換して不採算店を閉鎖し、手ごろな価格で庶民に好まれる店舗への切り替えを進めた。これが経営再建の原動力となった。2011年、最終損益は黒字に転じた。

 安定的に利益を出す路線への転換に加えて、2012年頃から同社は実績のある人材を外部から招く経営手法を取り入れている。2013年1月、米マクドナルドで社長兼COO(最高執行責任者)を務めたラルフ・アルバレス氏を会長に招聘。2013年9月には、グリーが急成長した2011年から2012年にかけてデータ分析チームを率いていた神谷勇樹氏を招き、データ分析チームのリーダーに据えた。

リーダーに与えられたミッション

 神谷氏に与えられたミッションは、「経営にデータとサイエンスを掛け合わせ、融合すること」。データ分析をもっと使いこなして、正しい経営的な判断を素早く下せるようにするという使命だ。

 そのため、谷社長をはじめマーケティングやファイナンスなどの本部長クラスは毎週月曜の1時間、経営データ分析の会議を開く。売り上げや客数、客単価などの予測と実績を比較することが会議の基本だ。

 例えば、2014年末から2015年の年明けにかけて、思いの外客単価が上がった。キャンペーンメニューだったビーフグリルが想定以上に売れたためだ。神谷氏が率いるデータ分析チーム「インサイト戦略グループ」は、そうした機会に原因を探り、会議へ報告する。

 分析の中で、新たなメニューの開発のアイデアが見つかることもある。例えば、想定以上にシニア層がステーキを好んでいるということだ。ビーフグリル好調の一因になったとみられる。シニア層の取り込みは、すかいらーくにとって重点課題。「シニア層は和食を好む」といった思い込みにこだわっていると、メニュー開発のアイデアも広がりにくい。そのメニューが誰に売れているのか、どのようなニーズが大きくなっているのか、今のトレンドは何なのかを明らかにすれば、ヒットメニューを開発するヒントになる。

 そこで、メニューと客層の関係をデータで把握するための取り組みを進めている。キャンペーンメニューと客層の関係は、ガストの公式スマートフォンアプリで配信するクーポンの利用データなどから分析している。さらに、提携しているTポイントカードの発行元カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)グループの分析サービスも活用する。

 2011年にすかいらーくを傘下に収めた米投資会社ベインキャピタルは、すかいらーくがデータ分析力を短期間で進化させたとみている。「もともと行動力があって判断の早い会社だったが、打ち手がうまくいく確率が良くなっている。顧客セグメントの手法のように、データや事実を意思決定にうまく生かすようになった。その結果、業績のボラティリティ(変動率)が小さくなった」(ベインキャピタルの横山淳マネージングディレクター)。

分析組織を2倍以上に増強

 データ分析リーダーに就任した神谷氏が最初に着手したのは分析組織の強化だ。もともと同社では「ビジネスインサイト」と呼ばれる6人のチームがデータ分析に取り組んでいた。神谷氏は谷社長にかけあい、データ分析チームを一気に16人に増員した。新たな人材は社内異動で確保した。他部署でデータを扱っていた人、企画畑の人を集めた。

 データ分析の組織を大きくしたのは、組織に新しい役割を担わせたかったからだ。データ分析組織は2つの役割を担わなくてはいけないと神谷氏は考える。1つはデータに基づいて「正しい方向性を示す(間違った結果を出さない)」こと。もう1つは「他の部署に働きかけて組織を動かす」ことである。

 分析能力の高い人がいればいいわけではない。プロモーションやメニュー開発など他の部署の人たちとうまく連携できなければ何のアクションにもつながらない。分析業務そのものと、組織への働きかけの両方をこなすには、これだけの人数が必要だと神谷氏は考えている。

 データ分析の基本的な考え方や分析手法の使い分けのポイントは社内で教育している。神谷氏自身が教えることもある。教材は手作りで、すかいらーくでの実例に近いものを素材にして教えている。実務に近いやり方で教えたほうが効率良く身につくからだ。ロジカルシンキングやスライド資料の作成といったビジネススキルの教育もしている。

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