鉄鋼業界がビッグデータ活用に向け、大連携を始めている。2014年春に鉄鋼大手や学術研究機関などから約50人が参集して研究会を立ち上げた。2016年度までの3年間の予定で鋼材の基礎データベースを整備して、韓国などアジアの鉄鋼メーカーに開発スピードで対抗していく狙いがある。

 日本鉄鋼協会が支援して「鉄鋼インフォマティクス研究会」を立ち上げた。中心となった鹿児島大学の大学院理工学研究科機械工学専攻の足立吉隆教授は、「これまで新たな鋼材を開発しようとした時に社内に情報がなく、記事や論文で基本的なことから調べなければいけないケースが少なくなかった。鋼材開発のインフラ作りが目的」と狙いを語る。

 同研究会のメンバーは現段階で、新日鉄住金、JFEスチール、神戸製鋼、新日鉄住金ステンレス、日新製鋼、ホンダ、理化学研究所、鹿児島大学、名古屋工業大学、東京農工大学などの日本勢に絞っている。研究会メンバー専用サイトの「材料ゲノムアーカイブ」でデータを検索したり、ダウンロードしたりできる。低炭素鋼などの基本鋼を中心に現在500種類のデータが登録されており、今後アルミニウムなど鉄系以外にも広げていく。「差異化となり競争力につながる先端素材のデータは各社がノウハウとして独自に持つべき部分」(足立教授)。

 鋼材に必要とされる強度や粘りといった特性を実現するため、どのような製造プロセスや鋼材の組織形状であればいいのかを研究者が推察できるようにするためのデータベースである。

3D解析でデジタルデータ化

 このうちデータベース化の課題となっていたのが鋼材の組織形状のデータであった。これまで主として2次元の写真画像として蓄積されていたが、3次元で解析してデジタルデータ化する装置が普及し始めた。足立教授自身も中山電機(大阪府四條畷市)と3D顕微鏡「Genus_3D」を開発。大手鉄鋼メーカーなどが導入することで、データ整備の時間を大幅に短縮しているという。

 米国では既に2011年にオバマ大統領が「マテリアルズゲノムイニシアティブ」というプロジェクトを立ち上げて国家として材料開発を支援している。日本では2014年に内閣府が革新的構造材料推進委員会を設置した。鉄鋼インフォマティクスとデータベースの仕様を同じにしてデータ連携できるようにする考えだ。

 足立教授は鉄鋼インフォマティクスを推進していくうえでの課題として「材料研究に、画像処理や数学、情報工学など他の分野との融合が求められるようになっている」と指摘する。日本の競争力を維持するため、異分野との連携を強める教育や国の施策が欠かせない。

鉄鋼インフォマティクス研究会の取り組み
鉄鋼インフォマティクス研究会の取り組み