大手メーカーも注目する生産革新活動「ダイセル式」で知られる化学メーカーのダイセルが、データ活用に本格的に乗り出した。複数の工場のエネルギー関連データを一元管理して、電力コストが最小になるように生産を移管する取り組みを2016年から本格化させる。

 自家発電設備を持つ複数の工場をあたかも1つの仮想工場のように制御することで実現する。商用電力の購入を最小限に抑え、年間数億円以上の効果を見込む。

 網干工場(兵庫県姫路市)と大竹工場(広島県大竹市)の2工場で、主力の生産品目である液晶フィルムなどに使う酢酸セルロース、タバコのフィルターについて生産量を調整できるようにする。

 ダイセル式では設備の設計や運用を標準化しており、2008年までに両品目をどちらの拠点でも生産できるようにした。2015年にはタバコフィルター向けの酢酸セルロースについても相互移管を可能にする計画だ。

 発電設備では電気だけでなく工程で利用する蒸気も発生させているが、蒸気は蓄積したり外部に販売したりできない。蒸気が相対的に多い工場側に生産品目を移管することで、商用電力の購入を最適化する。電気は託送と呼ぶ制度を使うことで、他の拠点に送ることも可能であり、今後活用を検討する。

 両工場の発電設備の燃料は、網干はガスと石炭、大竹は主として石炭で予備に重油を使っている。その調達コストなどの要因で蒸気量が変わってくる。「在庫が多少増えても、安価なエネルギーで生産した方がいいという考え方もある」(小河義美取締役常務執行役員)。

 現在は手計算で調整しているが、2015年にはプロトタイプシステムでの運用を始める。「当初は月単位で生産を調整するが、週次などそれより短い単位での調整にメリットがあるかどうかを見極める」(野中哲昌執行役員生産技術本部生産センター所長)との考えだ。

徹底した標準化の成果

 ダイセルは2000年以降、プロセス管理の標準化に取り組んできており、「実に800万もの意思決定ポイントを顕在化させて、紙のファイルに落とし込んだ」(小河取締役)。今回の仮想工場化も一連の取り組みの成果の1つと言える。生産品目の切り替え自体も通常は2~3日かかるものが、1日で済むようになったという。

 生産品目を移管すると顧客への配送ルートも変わる。在庫管理や配送などサプライチェーンのシステムとのデータ連係も予定している。

 今後は網干、大竹の2工場以外での生産移管も検討する。エネルギーの最適化だけでなく、顧客への供給責任を果たす上でも重要であると考えているからだ。

エネルギーを統合管理し、最低コストの生産場所を見いだす *発電量と蒸気量はイメージ。同レベルの時に生産に過不足がないと仮定する。
エネルギーを統合管理し、最低コストの生産場所を見いだす *発電量と蒸気量はイメージ。同レベルの時に生産に過不足がないと仮定する。
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