静岡ガスはビッグデータ活用でリフォーム事業の強化に乗り出した。今年1月にプロジェクトを発足し、ターゲットとなる顧客層をデータ分析で抽出、来年度から施策を本格化させる。

 「リフォーム事業の営業施策を策定するうえで強力な武器を得た。顧客の状況を把握できるビッグデータ分析だ」

 こう語るのは、静岡ガスのリビング営業部リビング企画担当の河合秀一氏だ。以前はグループ会社で手掛けてきたガス器具の修理や家全体の修繕、耐震補強といったリフォーム事業を、2011年に本体でも取り組み始めた。同社のガスショップであるエネリア(別会社、静岡県で12店展開)を第1窓口として事業を展開している。

 背景には都市ガス販売の頭打ちがある。2010年12月期以降、横ばいが続いている。そこでガス販売だけでなく「豊かで快適な暮らし」を顧客に提供していくことの一環としてリフォーム事業を強化している。静岡ガスにおける成長戦略の1つだ。

 静岡ガスは約30万人の個人顧客を抱えているが、リフォーム事業のターゲットは約13万8000人に上る戸建ての顧客だ。昨年は静岡ガス本体だけで約4000件のリフォームを手掛けた。

 ビッグデータ活用によって顧客を分析し、「リフォームに関心の高い顧客層に関する営業施策やニーズが顕在化していない顧客などの育成施策を来年1月から実行したい」(河合氏)との展望を描く。

今年1月にプロジェクト発足

 ビッグデータプロジェクトは、今年1月にスタートした。プロジェクトチームは5人。ICT推進室から2人、リビング営業部から1人(河合氏)、グループ会社からは静岡ガスリビングのハウジング事業部と静岡ガス・システムソリューションから各1人が参加している。プロジェクトの目的は2つ。データ分析によるリフォーム事業の拡大と、全社として顧客を知るためにデータ分析の土台を作ることだ。

 「ビッグデータを知っているか?当社でどう活用したらいいか、案を持ってきなさい」

 昨年秋、チームメンバーの1人であるICT推進室の佐藤貴亮・戦略支援担当チーフと河合氏は上層部に呼ばれ、こう言われた。同年12月24日、この2人を含む5人の社員がビッグデータ活用プロジェクトについてプレゼン。実施する場合のメンバーの名前も伝えたところ、その場で承認された。今年1月、プロジェクトチームは発足した。

 しかし、「ビッグデータ活用に関する経験がなく、パートナーの力を借りたいと思った」と佐藤チーフは当時を振り返る。数社を検討した中で、最終的に電通と富士通の2社が加わることになった。決め手は、データ分析だけでなくマーケティングまで一気通貫したソリューションを持っていたことだった。

 今年5月には、5人のプロジェクトチームと静岡ガスの業務部門に加えて、電通、富士通、富士通総研のメンバー総勢20人でワークショップを開いた。まず課題を洗い出し、データ分析のポイントを探った。6月には富士通が中心になってデータ分析作業を開始。都市ガスの使用量やガス器具、設備のデータに加えて、エネリアが顧客を訪問して集めている意見(テキストデータ)などを分析しやすいように整理した。

 8月上旬には、「決定木」分析を使って、約13万8000戸の戸建て住宅の顧客を40セグメントに分類した。決定木の条件(分岐)は、過去にリフォームの見積もりを申し込んだ顧客のデータなどを基に割り出している。例えば、「対前年のガス使用量が○○%以上減少」といったものだ。

約13万8000戸の戸建て住宅の顧客を「決定木」を使って40個のセグメントに分類
約13万8000戸の戸建て住宅の顧客を「決定木」を使って40個のセグメントに分類

 「リフォームの見積もりをゴールとして、それに至る条件分岐を明らかにするために決定木の手法を活用した。この手法は、『こういう場合にこういう結果になる』というルールを導き出せるのが特長だ」(富士通 イノベーションビジネス本部コンバージェンスサービス統括部コンバージェンスソリューション部の関口直弘ビジネスプロデューサー)。

 要は、どういう顧客がリフォーム見積もりの申し込みまで行くのか。そうした条件が分かるというわけだ。ちなみに昨年、見積もりを取った顧客の約50%は、実際にリフォームを行っている。

 今回は、40セグメントから2つのペルソナ(架空の顧客像)を抽出した。「高齢者ペルソナ」と「夫婦+未婚成人の子供がいるペルソナ」。2つに共通しているのは、「ガス使用量が特徴的であること」(関口氏)。現在、2つのペルソナに相当する戸建て顧客をターゲットにした営業施策の策定に取り組み、来年以降実施していく予定だ。

40セグメントをスコアリング

 さらに今回、40セグメントごとに、リフォームに対する関心度をスコアリングした。その際に用いたのはロジスティック回帰分析だ。それぞれのセグメントごとに、リフォーム見積もりの申し込みに至る確率を算出している。スコアリング式(アルゴリズム)の係数には、対前年のガス使用量の減少率や器具保有の有無など、リフォーム関心度に影響する項目を使っている。

 スコアが高いような特徴的なセグメントについては、それぞれの決定木の条件や顧客の属性情報、営業接点情報を基に、電通が保有しているパネルデータから抽出したペルソナの特徴と融合させている。電通保有のペルソナにはそれぞれ購買行動プロセスが明確になっており、結果として今回選んだ特徴的なセグメントの購買行動プロセスが判明する。さらに顧客ごとのスコアリング結果を重ね合わせることによって、各顧客が購買行動プロセスのどのステージにいるのかを把握している。

顧客を購買プロセスに分けてリフォームの見込み客に提案・育成
顧客を購買プロセスに分けてリフォームの見込み客に提案・育成

 上の図で「エネリア欲求」、すなわち購買の直前というステージ(業務部門による実際の提案を求めているタイミング)にいる顧客に対しては、リフォームの見積もりをすぐに提案するといった短期的な営業施策を策定する。「リフォーム関心」のステージにいる顧客に対しては、「エネリアサービス認知」や「エネリアサービス理解」「エネリア情報収集」などのステージに上げていくための長期的な育成施策を策定する。こうした施策で本当にリフォーム件数が増えるかどうかは、来年以降に判明する。

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