人間の行動から傾向を発見し深層心理に迫り、ビジネスに生かす手法を探る本特集。中編は電話セールスや展示会における顧客の行動をデータ化し、対応策を練った取り組みを紹介する。電話セールスでは管理職より、データを基にコンピュータで作成したセールス計画の方が高い成果を上げた。

電話セールス成約率、プロより3割アップのTMJ

 コールセンターのTMJ(東京都新宿区)は、顧客の購買行動を予測する技術の開発に取り組み、電話セールス計画をコンピュータで自動作成する方法を2011年に採用した。データ分析に基づく電話セールス計画は成約率の30%向上という成果をもたらした。

 この効果は次のようにして確かめた。例えば、クライアントから2カ月契約の電話セールス案件を受注したとする。最初の1カ月間は従来通り、コールセンターの管理職であるスーパーバイザーがセールス計画を作成し、電話セールスはその通りに実行。1カ月間の実績を基にして、スーパーバイザーが自分で電話セールス計画を作成した場合の後半1カ月の成約件数を予測した。

 実際には、後半1カ月のセールス計画はシステムが自動で作成したものを使用し、結果としてスーパーバイザーが予測した成約件数を3割も上回るものだった。

 コールセンターはクライアント企業から電話セールスの対象者のリストを預かり、自分たちで電話セールス計画を作成する。成約率を高めるには「誰にいつ電話をかけるかが大事なポイント」(事業推進本部競争力開発室の辻良紀氏)だ。

 スーパーバイザーが経験に基づいて電話セールス計画を作成してきたが、個人の技量によって質にバラツキが出てしまう。最大の成果を上げるセールス計画を常に作成できるようにして、コールセンターの競争力を高めることがTMJの狙いだった。

 電話セールス計画の作成システムが人間行動を把握するプロセスには2つのステップがある。最初に、対象者のリストから過去の購買データの分析に基づいて個人ごとの購買確率を算出し、対象者全体を200のグループに分類する。

 次に、対象者と電話のつながりやすい時間帯や、熟練度を考慮したオペレータの人員配置を掛け合わせて、5600通り以上の組み合わせを作る。このすべてについて予測される成約率を計算し、最良の計画を選ぶ。日本IBMのデータマイニングソフト「SPSS Modeler」を成約率の予測に使っている。

 システムの開発を担当した辻氏は「当初、人間の持っているノウハウをセールス計画に取り込むのは難しいだろうと思っていた。しかし、人間の技では不可能なところまでコンピュータなら到達できることが分かった。すべての組み合わせの中から最良のものを選ぶことは人間にはできないが、コンピュータにはできる」と振り返る。

電話セールス計画の作成の流れ
電話セールス計画の作成の流れ

人流を見える化、不思議な法則発見する日立

 高性能化が進むセンサーで人の流れを分析して、人の動きの不思議な“法則”を発見したのが日立だ。同社が1年で最大のイベントとして毎年10月に開催している「日立イノベーションフォーラム」で昨年、来場者全員の動きを詳細に計測したところ、全く予想していなかったことを3つも発見した。

 最も不思議なのは、通路にはみ出すなど突出したレイアウトのせいで人の流れの方向が変化すると、来場者は変化した方向にある展示の前で自然と足を止めることだ。理由は明確ではないが、「人流の変化が展示を見る時間の長さに影響を与えるのでは」(情報・通信システム社ビッグデータソリューション本部先端ビジネス開発センタの野宮正嗣技師)。

 まるで人の流れが変化した方向にある展示に、来場者は自然と関心を持つかのようなのだ。もしもこの“法則”が正しければ、より良いレイアウトづくりに活用できる。人の流れを変化させ、向かう先に優先度の高い展示を置くのが得策となるからだ。

 実際、日立は今年10月の同フォーラムの展示で、サイネージをあえてメーンの動線上に配置。展示に対する関心を高め、展示場を隈なく見てもらうことを意図したものだ。

 来場者の主な動線も事前に思い描いていたものとは全く違っていた。当初、テーマステージから始まって4つのミニステージに沿って展示場内を1回周遊する動きを想定していた。ところが実際には下図の2番目の図のように、来場者は最初にメーンの通路を直進してから展示場を2回も周遊することが多かった。来場者はメーンの太い通路をまっすぐに進む傾向があるようだった。

日立製作所の展示会の人流分析で分かったこと
日立製作所の展示会の人流分析で分かったこと

 テーマステージが人を引きつける強い力を持っているということも裏付けられた。基本的な人の流れは一方通行で進むように計画していたが、10分間のステージが始まるとテーマステージから離れつつある人の流れの66%が戻ってきた。

 このような発見から今年の展示場の中心にテーマステージを設けることを決定。来場者を集めては送り出すポンプの役割を持たせたのだ。

ひと手間で人の流れが2%変わる

 リアルタイムの動線分析も行った。展示場内のすべての人の流れが画面上で可視化され、来場者の密集度、通路の交通量、各展示の集客力(人数×滞在時間)、関心度の代理指標としての人の歩く速度などを数値化していった。

 ここから実際の動線が計画と全く違うことが初日に分かった。計画していた動線で展示ブースの入り口に来た人と、別の方向から来た人のブース内部への入店率に明確な差があることも判明した。計画通りの動線をたどった人の7割が中に入ってくれたが、別の方向から来た人は5割弱しか入っていなかった。

 すぐに対策を打った。計画していた動線に誘う小さな広告を人の流れの分かれ目に置いただけだ。たったこれだけの対策であるが、ブースへの入店率が2%高まった。一見少ないように見えるかもしれないが、ブース内部に立ち入る人が850人も増える計算になる。

 展示場の人の流れを計測したのは赤外線を出してその反射から人の動きを検出するセンサーである。5000平方メートルの展示場全体を11台のセンサーでカバーした。年齢や性別といったものは分からない。展示場の入り口の大きなPOPで、人の流れを計測していることを告知した。このような計測が来場者に不安を与えていないことを来場者アンケートの回答から確認している。