アクサ生命保険は将来的に、加入者の健康状態に応じて保険料をダイナミックに変えることを検討している。ウエアラブル端末やスマホのアプリに日々入力するデータ、社外のビッグデータなどを活用して病気になる確率の精度を上げていき、保険料を段階的に変えていく。

 アクサ生命保険は今年10月、ビッグデータ時代のビジネスモデルに関して、その基本的な考え方を明らかにした。ビッグデータ時代には、生命保険加入者の健康状態を1人ひとりより精緻に把握できるようになる。日々の健康状態を入力したり、人の行動と病気になる因果関係が解明できるようになるからだ。時期は明確にしていないが、ある段階でダイナミックな生命保険料金を設定することができるようになると表明したのだ。

まずは健康アプリでデータ収集

 同社は10月1日から、既に展開している予防プログラム「アクサメディカルアシスタンスサービス」に、無料で使える「健康アプリ Health U(ヘルスユー)」を追加導入した。この健康アプリは、健康を維持していくうえで阻害要因になっている「がん・脳血管疾患・心疾患」などの予防を支援。具体的には、利用者が健康に関する64の質問に回答すれば、現在の生活習慣の状態「健康ステージ」を把握することができる。ステージは9段階。アプリは健康ステージごとに提案する生活習慣改善に向けた取り組みから利用者にあった健康習慣を選択してもらう。

 ちなみに健康アプリは、身長・体重・歩数計・消費カロリー・血圧などの健康度の把握が可能になる。米フィットビット(FitBit)やタニタのウエアラブル端末のデータを自動的に収集できる。その結果、アクサ生命としては、利用者の健康状態を継続して把握できるメリットがある。

 健康アプリは誰でも使うことができる。ただし、アクサ生命保険の加入者が使えば、これまでのビジネスモデルを進化させることが可能になるという。つまり、加入者の健康ステージを継続的に把握できるので、そのステージなどに応じて生命保険料をダイナミックに変えることができるというわけだ。

アクサ生命保険専務執行役兼チーフマーケティングオフィサーの松田貴夫取締役
アクサ生命保険専務執行役兼チーフマーケティングオフィサーの松田貴夫取締役

 アクサ生命保険専務執行役兼チーフマーケティングオフィサーの松田貴夫取締役は「同じ年齢と性別でも病気になるリスクが1から1.2になる人と、1から0.8になる人が同じ保険料金ということは公平ではない」と話す。前述したように、いつから保険料金を変えていくかということは決まっていない。ただし、ある段階で健康状態によって保険料を変えるという方針だ。松田取締役は考え方をこう語る。

 「毎日喫煙している人が肺がんになる確率は既に分かっている。ただし、1日1万歩歩いている人や夜9時以降に食事を取らない人が病気になる確率がそうでない人に比べて下がるのかといったことはまだ分かっていない。しかし、ビッグデータ時代には、人の行動データと病気になる確率の相関関係はいずれ解明できるようになる。健康的な生活を送っている人の病気になる確率が下がることが分かり、その精度は上がっていく」

 既に優良ドライバーの自動車保険料を下げている。健康な若い人で医療保険の利用が少ない加入者に対しては、生命保険料を値下げする日はそう遠くない。

 生命保険に入って病気にならない人は、「加入していて損をした」と思うことが多いという。そういう人には、保険料を現金で戻すことも検討している。「健康になることで保険料の支払いが減額されれば、金銭的なメリットを感じてもらえる」と松田取締役は説明する。

ビッグデータ時代の保険会社

 実は松田取締役はここ15年、何の手も打たなければ、いずれ保険会社は必要なくなると考えていた。

 「人がなぜ生命保険に加入するかといえば、保険会社がリスク分析の専門家という存在でいられたからだ。ビッグデータ時代には、保険会社に頼らなくても、自分でリスクを知ることができる。女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが自分の遺伝子を調べて乳ガンになる確率を知り、乳房の切除手術を決断したように、自分が病気になるリスクの確率が分かるようになると、保険会社は要らなくなる。もし生き残るには、保険の加入者よりも一歩も二歩もリスクに関する専門家になり、有効なソリューションを提供できなければならない」  

 アクサ生命は昨年、米シリコンバレーにAXALabを設立した。基本的に3つのミッションを持っている。1つは、デジタル化を推進して各事業部の変革をサポートすること。次に世界で最新のイノベーションを全社に紹介すること。3つ目は、デジタルネイティブである若者のニーズを探ることだ。

 ちなみにフランスでは、興味深い動きがある。フィットネス・トラッカーのWithingsとアクサフランスが提携。運動をすると生命保険料を安くするという取り組みが既にある。具体的には、Withingsがアクサの保険加入者に歩数計を無料で贈呈。たくさん歩いた人は、最大100ユーロ割引されるという。

 ビッグデータ時代、生命保険会社の本業は、「より健康な生活を送ってもらえるように支援することになり、その一部に保険事業がある」(松田取締役)。引き続き消費者に頼りにされる存在になるためにも、パートナー企業との連携を強めてビッグデータを収集・分析する取り組みが求められる。

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