「企業のデータ活用実態調査」特集の第3回は、成果を出しやすいとされるサポート部門でデータ分析で問題への対応を早めた企業に着目した。三菱電機は、「依頼の当日か翌日に対応し、かつ1回の訪問で修理を済ませる」という目標の実現のためデータを活用している。

【サポート部門】問題発生時の対応を迅速化(三菱電機、あいおいニッセイ)

 三菱電機は、家電製品などを購入した顧客からの修理依頼に対して、それまでに蓄積された修理データを分析し、迅速な対応を実現。「依頼の当日か翌日に対応し、かつ1回の訪問で修理を済ませる」(リビング・デジタルメディア事業本部CS部CS企画グループの角田亘マネージャー)という目標を、約5年前から、「100%に近い状態で達成している」(角田マネージャー)。とりわけ、「案件が集中する夏季のエアコン出張修理でも、この目標を達成できているところが強み」(角田マネージャー)だ。

 目標達成のためには、実際の修理を担当する子会社が全国に展開するサービス拠点に、適正な数の修理要員を配置し、拠点ごとに必要な部品を過不足なく確保する必要がある。

 そこで三菱電機が活用したのが、製品ごと、地域ごとに、製品の型番、購入時期、症状、実際の修理箇所、修理に使った部品、修理に要した時間などを克明に記し、約15年前から蓄積している修理データだ。修理要請は「年100万件に達する」(角田マネージャー)というから、現在は1500万件以上の修理データが蓄積されている計算になる。

 今回の「企業におけるデータ活用の実態調査」(有効回答数203社)では「データ活用の強化方針」を尋ねた。下図のようにサポート部門では、「より詳細に把握・予測できるデータの収集」と答えた企業が最も多く36.2%に達したが、三菱電機は既に詳細なデータ収集に長けている企業と評価できるだろう。

データ活用の強化方針(データ収集)
データ活用の強化方針(データ収集)

 この修理データに、気象データなど外部のデータも組み合わせて分析し、製品ごとに修理依頼が多そうな地域や時期には、当該サービス拠点の修理要員を多めに、逆の時は少なめに配置。同時に部品の在庫も確保した。過去の修理データを分析することで部品ごとの需要を予測し、部品全体の在庫管理に生かしている。

 そのうえで、修理依頼の電話を受けた時、「どの製品で、どこが不具合か」などをオペレーターが顧客から聞き出し、過去の修理データと照らし合わせて顧客の製品の症状を特定。顧客最寄りのサービス拠点で修理要員を手配し、修理に必要と予測される部品も確保するのだ。

 三菱電機では今のところ、修理対応以外に修理データを利用してはいないが、「今後は修理データを販促に結びつけることも検討していきたい」と角田マネージャーは語る。

保険金支払い担当者を適正配置

 顧客に保険金を支払う体制の整備にデータを活用するのが、あいおいニッセイ同和損害保険だ。同社では2003年、ニッセイ同和損害保険と合併する前のあいおい損害保険時代に、保険金支払いを担当する損害サービス業務部の中にデータ活用の専門部署、管理統計グループを設置。保険金請求があった場合、保険金支払いシステムの中に自動的にデータが蓄積される仕組みを作り上げた。

 どの案件にいくら保険金を支払ったかだけでなく、請求から支払いまでのプロセスごとにかかった時間や、損害を100とした場合にどの程度の割合を保険金で支払ったかという“バランス”なども記録する。

 このデータに基づき、「実際に保険金を支払う担当者の配置を、地域ごと、時期ごとに適正となるよう、ダイナミックに変えている」(損害サービス業務部企画グループの山本泉担当部長兼グループ長)。請求件数や支払いまで時間のかかる案件が多いのに担当者が少なければ、一般的に支払い手続きが遅れて顧客の満足度が下がるし、逆に担当者が多すぎれば、その人件費が商品の原価に跳ね返ってくるからだ。

 山本担当部長兼グループ長は「データ活用を進めるうえで東日本大震災が1つの教訓になった」と振り返る。当時はどのくらいの保険金が請求されるか読み切れず、手が空いているサービスセンターの人間を全員、保険金支払い請求への対応に投入した。結果として顧客対応は滞りなく進んだが、他の手立てはなかったかという思いは拭えなかったという。同社はその後、データを活用した効率的な人員配置を追求。保険金支払いにかかる総コストの削減という形で、成果を出しているという。

【全社組織】各部署を束ねた調整で成果(リコー)

全社のデータ活用を推進する部署 (全社組織を持つ93社の回答)
全社のデータ活用を推進する部署 (全社組織を持つ93社の回答)

 現時点で多くの企業が各事業部の最前線でデータ活用の成果を出していることが見えてきた。一方で全社をまたいだデータ活用組織を新設して推進する動きも出始めている。本調査では全社のデータ活用組織を持つ企業に、その役割を担う部門を尋ねたところ、情報システム部門と経営企画系部門がともに37.6%と同率で並んだ。最適解は企業により異なり、まだ模索中といえよう。

 その全社組織の強化を急ぐのがリコーである。同社は専門部署であり、全社活用組織でもあるデータインテリジェンス(DI)推進部を2013年4月に設立し、今年に入ってビッグデータ活用を本格化している。リコーのコーポレート統括本部経営企画センターDI推進部の佐藤敏明部長は「ここ数カ月間でサポート業務において想定を上回る効果が出始めている」と明かす。

 全社組織でデータ活用を進めるメリットについて「我々のような全社組織が社内の設計、サービス、品質といった各部門に声をかけて調整することで、今回のような成果が得られると思う。Excelで可能な分析を超える結果も出していける」と佐藤部長。IT部門もサポート業務での成果を認め、2015年に展開予定だった支援システムを一部年内稼働に前倒ししたという。

全社組織のカギは経営の意識

 一方で、全社組織にも課題はある。DI推進部のような全社組織がデータ分析に基づき、部門に問題を指摘しても、現場が受け入れない場合がある。こうした課題へ佐藤部長は「経営トップがデータ分析重視の方針をしっかり示す、社会心理学的な手法を使うなどして組織間の人間関係を醸成する」などの策が有効とみる。

 全社組織に専門人材を集めにくいという課題もある。社内の各部門もデータ分析の素養のある人材を離したがらないからだ。そこで佐藤部長は社内公募の仕組みを使って人材を募ったところ、過去の公募を大きく上回る数の応募があったという。必ずしもデータ分析の専門家ではないが、「公募に応じる人はバイタリティーが高く、ハードな教育プログラムを脱落者ゼロで終了しているほど」(佐藤部長)。リコーの場合、公募と育成が解になっている。

 全社データ活用組織の立ち上げを後押ししたのは当時の近藤史朗社長だ。「ミッションはデータ分析ではなく、会社や仕事の役に立つプロセス改革を進めること」(佐藤部長)。データを全社で活用する動きを支援して早期に軌道に乗せるには、経営の決断と後押しも欠かせない。